音楽にまつわる今のトピックについて、ライター / 批評家に語り合ってもらう座談会「What’s NiEW MUSIC」。今回はつやちゃん、島岡奈央、風間一慶の3名による、先日開催された『SUMMER SONIC 2025』『SONICMANIA』、ビリー・アイリッシュ来日公演に関する話題をお届けします。
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アリシア・キーズと若いオーディエンスの接続
—つやちゃんさん、島岡さんは『SUMMER SONIC 2025』、風間さんは『SONICMANIA』とビリー・アイリッシュ来日公演にご参加されたとのことですが、いかがでしたか?
つやちゃん:やはり、アリシア・キーズはめちゃくちゃ良かったんですよ……!
島岡:良かったですね! 私、ゲストが出るとかぜんぜん知らなくて。そのあたり、どう思われましたか? 序盤はずっと、彼女の一番有名な曲をどんどん歌っていくような感じだったじゃないですか。本当にいいステージだなって思って、涙が出てくるぐらい。なので、そこからの流れをどう捉えられたかな? って。
—アリシアのステージで何が起こっていたか、ご存知ない方に簡単に紹介いただけますか。
島岡:あ、そうですよね。ステージの途中でAwitchさんが出てきて、“Bad Bitch 美学 Remix”が始まったんです。そこへNENEさんやMaRIさん、LANAさんも出てきて。MaRIさんのキャットウォークは、ほれぼれと見てしまいました(笑)。それからAIさんが登場して、AIさんの“ハピネス”とアリシアの“No One”をマッシュアップでやったんですよね。AIさんがアリシアの弾くグランドピアノの、カーブの部分に腕を置いて。AIさん、涙ぐまれてましたよね。
風間:そうなんですね。“ハピネス”を歌ったのは全然知らなかったです。
つやちゃん:そうそう。自分は前半めちゃめちゃ感動して、どっぷり浸りつつも、とはいえ、これは若いお客さんにとってどのぐらいリアリティがあるんだろう? っていうのは同時に気になっていたんです。オーセンティックなR&Bのリスナーにとってはめちゃくちゃいいステージだけど、アリシア・キーズって、若い人にとってはいまリアリティを持ちづらいのかもなと。そこに後半、ああいう感じで若い文脈というか、お互いをつなぐようなものが来たので、なるほどなと思いました。
島岡:そうですよね。ローカルの若い世代、アリシア・キーズをリアルタイムで通ってない世代につなげるようなステージングを、制作の方が考えられているのは、よくわかります。ただ、これは面倒臭い人間からの意見と思ってもらって大丈夫なんですけど……その構図がちょっと気にもなって。見ていたときは本当にすごい楽しかったんですけど、家に帰ってるときに、大阪のゲストはちゃんみなさんで、東京は(ちゃんみなにビーフを仕掛けたNENEを含む)“Bad Bitch 美学”のみなさんで、なんか、アリシア・キーズに旗を振らせてユニティみたいな感じにまとめてる……? とか思ってしまって。
風間:それもすごくわかります。
つやちゃん:アリシア・キーズはもちろんすごいんですけど、あれだけのスタジアムが埋まるのは、やっぱり『サマソニ』だからこそだと思うんですよね。『サマソニ』は一応、あれだけの数の若い人たちを拘束することができる、というか。そこまでよく知らない人でも、『サマソニ』のヘッドライナーだから見るっていう、あらゆるところで崩壊した洋楽の教養みたいな——教養という言葉を使うと権威的すぎるかもしれないですけど——そういうのがやっぱり『サマソニ』や『フジロック』には唯一残っているんだなっていうのは、つくづく感じましたね。若い人にとっていま唯一20世紀が残ってる場所なんじゃないかな、みたいなことを思っちゃって、ジーンときちゃいました。そこに“Bad Bitch 美学”みたいなところが接続して、その意味もより一層出てくる。
「今年、ビーチステージの正解を出しましたよね」
風間:ヘッドライナーではそうして最大公約数を取りにいく一方、配置的にその真裏でやっているビーチステージの方は、「自分たちの文化をレペゼンするステージをお願いします」という感じで、今回はFeidとかTainyも呼んでやっていますよね。SNSはそっちの絶賛が多かったですし、すごく惹かれましたね。
つやちゃん:ビーチステージ良かったですね。島岡さんはビーチステージ行かれました?
島岡:はい。アリシア・キーズを見終わって「もうなにも悔いはない、帰ろう」と思ってたんですけど、人混みに飲まれて歩いていて「海に足ぐらいはつけれるかな?」みたいな感じで寄ったら、レゲトンがドンドンって感じで。もうちょっと早く来ればよかった、なんで帰ろうとしたんだ、って(笑)。
つやちゃん:今年、ビーチステージの正解を出しましたよね。
島岡:間違いないと思います、それは。
つやちゃん:Feidがキュレーションしたじゃないですか。ラテンは、あれだけ世界で盛り上がってるのに日本ではなかなか難しいなとずっと言われていた中で、すごいハマってて。海風も気持ちいいし、ロケーション最高で、毎年あれでもいいんじゃないかぐらいにちょっと思っちゃったんですけど。
風間:マリンステージの夕方ぐらいの時間帯もJ BALVIN、カミラ・カベロの流れでしたよね。そこも羨ましかったです。
つやちゃん:めちゃくちゃよかったですね、カミラ・カベロ。今回の『サマソニ』は、これからの国内のラテン受容につながりそうな光を感じました。そういう意味でもカミラ・カベロ、ああいう大衆的なポップスターがマリンステージですごいいいステージを魅せたというのは、良かったですし、かわいくて最高でした。
島岡:ラテン系アーティストのお祭り感のバイブスが、日本人にどうデリバーされるか、ちょっと疑念的な部分もあったんです。もちろん、静かに心の中で楽しまれてるのかな? っていう感じの方もいっぱいいらっしゃったんですけど、けっこう踊っている方もいて。彼らのパッションのバイブスというか、「腹から声を出して、ひたすら飛んで、ジャンプして」みたいなノリも、けっこう通じる部分があるんだなと思いました。
つやちゃん:うんうん。2010年代にトラップが日本に一応ちゃんと浸透したように、10年前にKOHHがトラップをちゃんと輸入してそこに日本語を乗せたようなものが、ラテンでも何か出てきたら、一気に広まるんでしょうけどね。なかなかそこが描きづらいですし、ちょっとずつああいうところでやっていくしかないよね、っていうのは思いましたね。
島岡:そうですね。本当に長い道のりかも知れないです。トラップに関して言うと、21 Savageのステージでは「こんなにトラップを聴く若者人口がいるんだ!」とびっくりしましたね。隣で、歌詞もほぼほぼ暗記してる男の子が、ずっと飛び跳ねて歌っていて。私は今までトラップの記事もたまに書いてたんですけど、実際に聴いてる人の顔をあまり見たことがなかったので、そこは嬉しかったですね。
バンドサウンドが映えていたビリー・アイリッシュ
風間:日本のオーディエンスはしらけてるとよく言われますけど、それもほぼなくなってきているんだなというのは感じます。若い人の熱量の高さは、ビリー・アイリッシュを観に行っても思いました。ビリーと同じファッション、それも今のビリーの、バスケットボールウェアを身にまとった人がすごい多くて。あのバスケットボールの服装って、ビリー本人がインタビューでも公言してるんですけど、体型に関係のない、体型をフラットにするファッションなんですよね。
つやちゃん:カルチャーの、各コミュニティの深度だったり理解度だったり、熱狂度がどんどん上がってきていますよね。ただそれが、個々のアーティストやジャンルに紐づいていて個別的だから、昔みたいに「今の時代ってこうだよね」ってなかなか言いづらいんだけど。1個1個見ていくと、すごいことになっていると思います。
—ビリー・アイリッシュのステージはいかがでしたか?
風間:新作の曲の良さを生かすためのバンドセットだったんだな、っていうのが、後になって辻褄合わせのようにわかる感じがしました。そもそも音源の方を、バンドセットのライブで映えるように狙って作ったのではないかと邪推したくなるぐらい、ハマってましたね。一番周りが立ってたのは、正直、“bad guy”とか“Guess”とかそういう曲でしたけど……。ビリーはとにかくミュージシャンシップも高いし、“when the party is over”という曲では、自分の声だけでその場でループを作って。あとシンプルにギターもめちゃくちゃ弾けるようになってたし、トータルですごいものを観たなっていう感動がありましたね。
「トライブ」に意識的な『サマソニ』のキュレーション
—『ソニマニ』のFloating Pointsと宇多田ヒカルの共演についても、所感を聞かせてください。
風間:最初の15分20分ぐらいで、もう“Somewhere Near Marseilles”のシンセのフレーズが示唆みたいな感じで流れ始めて。僕は相当後ろの方で観てたんですけど、『SONICMANIA』って後ろの方はけっこうみんな寝てるんですよ。それがみんなムクッと起き上がりましたね(笑)。宇多田ヒカルは1曲だけやって帰ったんですけど、その後のライブの方がアバンギャルドというか、これぞFloating Pointsっていうステージだったので、多分あの場にいた人は、宇多田ヒカルが観れたっていう喜びがある反面、それに全然食われずむしろ「Floating Pointsってやっぱすげえ」と感じて帰ったと思います。そういう意味ですごい良いコラボレーションだったなと思いました。お祭り感もありましたし。
つやちゃん:音源もライブもコラボレーションが増えすぎて、みんなの目が肥えて厳しくなってきますよね。
風間:確かにそれはそうかもしれないですね。贅沢な悩みですけど、リスナーの側が不感症みたいになったときに何が残るんだろう、という問題はいつか顕在化するかもしれません。『サマソニ』は、例えば2 hollisを観た人はTohjiも観るし、Minna-no-Kimochiまで残るよね、みたいなのをすごい汲んでるフェスで、そこは意識的だなと思うんです。今年は『SONICMANIA』だけの参加でも、そういうある種のトライブの違いみたいなのが、普段以上に見えた気もしましたね。
つやちゃん:近い話題では、自分の中では「裏サマーソニック」と呼んでたんですけど、ちょうど同じ日に渋谷WWWでiVyとPeterparker69のライブをやってて、すごい熱狂だったみたいですね。多分iVyもPeterparker69もうそのうち『SUMMER SONIC』の大きいステージに出るでしょうけど、いま次から次に、WWWの次(の規模のステージ)に行くか行かないかぐらいのトライブがいっぱい出てきている感じは、見ていて思いますね。
風間:わかります。そういうのをフックアップする側面も『サマソニ』はありますよね。方々で言われてることですけど、雑誌的な見せ方、キュレーションを一番果たしているのはやっぱり『SUMMER SONIC』なんじゃないかなって。それがちゃんといろんな人に受容されているな、と思います。