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「建前」が共有されたのは大きな前進
ー宇多丸さんも、まず相談者が何に悩んでいるのかを解体・分析して並べ直すという作業をしていることが多いように思います。
宇多丸:そうそうそう、けっこう何を相談したいのかわからない文章もあるんですよ。そもそもの問題設定が間違ってることもあるし、身も蓋もないことを言えば別に答えを求めていないこともある。みんな馬鹿じゃないから、合理的な答えは考えればわかるけど、そこにどうしても辿り着けないというような不合理で正解のないところに悩んでいるので、それを聞いてもらうだけでいいというか。実生活で「相談がある」って言われるときもそうじゃないですか。「とにかく聞いてくれ!」という。だから、基本的にはちゃんと「うんうん」と聞いてあげないといけないんですよね。時にはね、僕が質問にイラッとしちゃうことがあるんだけど(笑)。
ーどういう類の相談に対してですか?
宇多丸:なんだろう。(マネージャーさんに向かって)どういうときにイラッとしてます?
マネージャー:恋愛相談に書かれている彼氏に向かって怒っていることはありますね。
宇多丸:それはもちろんある。あと、例えば質問者が「こういう嫌な人がいて」と書いてることに対して「その決めつけはちょっとどうなんだ」と、多少イラッとした言い方をしてるかもしれない。「思い込みかもしれないじゃん」っていう。

ー「このままだと不幸になってしまいます」というような相談に対して、「そうとも言い切れないんじゃないか」と返すこともありますよね。
宇多丸:幸せ不幸せというのはめちゃくちゃ主観的な話だから。でも、そういう相談をする人は「不幸せカタルシス」に突き進んでいる感もあって、「ああ、もうだめだ……」ってなるのが気持ちいい節もあるんだと思うんですよ。特に恋愛に関することは、当事者とそれ以外のテンションに差がありすぎるから。恋愛そのものが不条理なので、それはしょうがないんですけど。
ーこの12年で相談の内容は変化していると感じますか?
宇多丸:うーん、意外と変わっていない気もします。「結婚しないと / 子供を持たないと不幸になると思うんですが」みたいな相談は相変わらず来ますし。
とはいえ、やっぱり「#MeToo」以降の社会の変化を踏まえた話にはなってますよね。それ以前から、会社でのハラスメントに関わるような相談には「それは性差別です、警察案件です」と言ってましたけど、よりそれが社会常識になったというか。「社内にコンプライアンス部はないの?」という話になるようなことが増えましたよね。
ー前提になったというか。
宇多丸:そうですそうです。「日本はこういう社会だからね……」と半ば諦めムードの中で話していたのが、今は「どんな職場であれ差別に対して善処するのが当然」という建前が一応は共有されている。それが本当に解決されているかどうかというのはこれからの話かもしれないけど、建前があるだけでも大きな前進という感じです。
ー解決方法にアクセスしやすくなってますもんね。
宇多丸:会社側がビクビクするようになってますから。だから、コミュニケーションに躊躇するようになったというのは悪いことじゃないんですよ。全然いいことだと思います。みんな躊躇すべき。
ー「当たって砕けろ」「嫌われる覚悟を持て」みたいな姿勢も、暴力的ですし。
宇多丸:それが必要な場合もあるかもしれないですけどね。「めんどくせえ世の中になった」なんていうけど、それは必要なプロセスなので。なぜそのめんどくささが必要になったのかという議論を抜きにしちゃうから難しくなるけど、「そもそもハラスメントはなぜいけないのか」と考えたり勉強したりすれば納得せざるを得ないと思いますよ。