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全員立場が違うから、その話を聞く意義がある
ー書籍にも収録されている「子供を産むのが人生の目標ですが、結婚を前提に付き合っている彼との子供を妊娠する可能性は低いことがわかり……」(2020年2月22日)という相談に対する回答は「こればっかりは僕らがあんまりとやかく言うこともできないというか」から始まってるんですよね。人生相談としての切っ先は鈍くなるけど、誠実なスタンスだなと思いました。
宇多丸:当たり前のことですけど、責任取りきれないですから。「ご参考までに」ということでしかない。僕の狭い知見と経験に照らし合わせて聞かれたなりのことは答えるけど、それをどう思うかはあなた次第です、くらいに止める以外にはないですよね。
相談してくれた人が事後報告も送ってくれるようになって、だいたいは「答えてもらってよかったです」と書いてくれてるんだけど、よくよく読んでみるとあんまり回答が解決に影響してない人も半分くらいいて。「その後いろいろありまして、なんやかんやでどうでも良くなりました」みたいな(笑)。当然、人生相談の回答が直接救うわけでもないので。話を聞いて答える人がいるということ自体がなんらかのプラスになったんだろうな、くらいの。

宇多丸:だから、人生相談の名手と言われている人が、本当に名手なのか。読み物として面白いということと、その人生相談が本当にいい結果を出しているかは別ですからね。
ーすごい球速を出しているけど、ストライクを取れているかはわからない、というか。
宇多丸:もちろん、そもそもストライクなんてないのかもしれないし。質問文だけじゃわかることは限られてるから。例えば恋愛相談だと、たいていはパートナーのネガティブなことが書いてあるんです。だからそれだけを読むと「そんなもん別れろよ!」としか思わないんだけど、でも好きで付き合った経緯もあるはずで。「好きならしょうがねえか」とも思うし。事後報告をもらったりして双方向的ではあるんだけど、もちろん限界はあるから、その限界を踏まえた上で物を言うのか、限界がないふりをしてエンタメに徹するのか、ということじゃないですかね。
ー宇多丸さんは限界や立場を明らかにする方で。
宇多丸:特にこの人生相談はそうですよね。女性からの相談に男性という他者として答えているわけだから。違う立場から俯瞰して見るというのは、最初から一貫してるかもしれない。そもそも人生相談っていうのは、そういう「他者」にするものなのかもしれないですね。
ーそうすると、「どういう立場の人が答えているのか」ということが非常に重要になりますね。
宇多丸:それは間違いなくそうだと思います。僕は子供がいないから、「子供がいないことで嫌な目に遭いました」というような悩みにはすごく寄り添うことになる。「もう、ふっざけんなよ!」ってなる。逆に「子供が出来ないから人生お終いです」みたいな考え方には否定的になりがちだし。だから、ひょっとしたら子供を持った途端に「いやー、人生は子供ですよ」とか言い出すかもしれない(笑)。ある立場になるということは、別の立場とは距離が生まれちゃうということでもありますから。子供を持ったら、たぶん子供がいない人の気持ちとはどうしても距離ができる。だからこそ、どんな立場の人にも「自分はこう思う」と話す意味はある、とも言える。
ー社会的に偉い / 偉くないに関わらず。
宇多丸:もちろんそうです。全員違うんだからその話を聞く意義はある、ということかもしれない。
ー「どれだけ成功しているか」みたいなことは、人生相談に答えるにあたっては関係ないと。
宇多丸:まあ、トピックにもよりますけどね。特定の目的に関する相談、例えばビジネスに関することなら、ビジネスで成功してる人に聞いた方がもちろんいいだろうし。だから、「ハラスメントになるかもしれないから、部下からの相談に答えづらい」みたいなことも、聞く側がどれだけ具体的な話をしているのかによると思うんですよ。具体的なやり方、テクニックに関することなら「それだと出来ないね」とか、バッサリ言ってもいいこともあるだろうし。前提が細分化していけばいくほど、当然役に立つ回答に近づいてはゆきますよね。