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「聞く」のほうがよっぽど難しい
ー恋愛相談の回答として「相手も告白を待ってると思うよ!」みたいな雑なアドバイスもありますけど、相手の気持ちはどこにも書いてないし、当人しか知り得ないわけで。
清田:実際に待っている可能性だってないとは言い切れないけど、まずフォーカスするべきなのは「なぜ相談者は告白に踏み出せないのか」という部分だと思うんですよ。2人の関係性から躊躇してるのかもしれないし、過去に踏み出したらものすごく失敗した経験があるからかもしれない。背景を一緒に探りながら、踏み出せない要因を考えていくことはできますよね。推測でものを言うんじゃなくて、目の前にいる人とわかる範囲のことを考えるだけでも十分色々なことが見えてくると思うので。

清田:とはいえ、語られていることや書かれていることを意味通りに理解するのは、言うほど簡単なことじゃないと思うんです。東畑開人さん(臨床心理士、公認心理師)も、「聴く」という言葉には行間や裏側を読むような能動性があるように思えるけど、実際には語られていることを意味通り理解する「聞く」のほうがよっぽど難しい、と書いていました。プロのカウンセラーでもそうなんだから、我々のような素人の回答者にできるのは、まず聞く、まず読む。その上で現在地を確認し、相手に見えている景色をなるべくそのまま共有していくこと大事ではないかと思います。
ーそれがコミュニケーションの「危うい楽しさ」に抗う第一歩だし、誠実さにつながっていくという。
清田:そういう姿勢のほうが、ある意味でパンクだと思うんですよね。裏読みして刺激の強い言葉を使ったほうが読者ウケもいいんだとは思うけど、そういう欲望に引っ張られるほうが安易な“あるある”なので。
ー根拠のない回答のほうが、魔法を使ってるように見えちゃうんでしょうね。
清田:論理的に考えるということは「プロセスを踏んでつなげていく」ということなので、順を追って読んでいくと「そりゃそうだ」という感想になりがちなんです。でも、相談と回答の結論だけ見れば、そこにはかなりの飛躍があったりする。ぶっ飛んだ回答のほうが簡単に驚きを生み出せるんだけど、結論としてはスタート地点からほとんど動いていないってケースも多かったりする。相談から回答に辿り着く過程をちゃんと見せていくほうがよっぽど難しいと思うんですよね。

ー細木数子の「あんた死ぬわよ!」みたいな極論なら、いくらでも言えるだろうと思っちゃいます。
清田:まあ、あれは占いというまた別の根拠があるんでしょうけど(笑)。美輪(明宏)さんレベルの人ならオーラみたいなことを言っても説得力が宿ると思うんですけど、それは神々の世界の話なので……。一般の世界に住む我々としては、ちゃんと話を聞き、文章を読み込み、その上で論理的に話を進めていく態度が必須だと思います。
『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』

価格:2,090円(本体1,900円+税)
判型:四六判
ページ数:304ページ
ISBNコード:9784778319960
1 〈男〉とフェミニズム──シスターフッドの外側で
2 我は、おじさん──男性優位社会と中年世代の責任
3 被害と加害と恥と傷──泣いてる〈俺〉を抱きしめて
4 平成から遠く離れて──生産性の呪いと自己責任社会
5 家父長制への抵抗──結婚と家族、ジェンダーの呪縛
6 これからの〈俺たち〉へ──beingの肯定