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読者の欲望に従わないために、ひたすら読む
ー朝日新聞の人生相談コーナー「悩みのるつぼ」にも、上野千鶴子さん、姜尚中さんなど錚々たる面々に並んで回答者として参加されてますよね。あれは「清田さんに答えてほしい」というような感じで、名指しで相談が届くんですか?
清田:そういう時もありますが、基本的には指名がない相談の中から、各回答者に合いそうなものを編集者さんが割り振ってくれ、そこから選んでいる感じです。
ー指名がない相談に答えるのは、抽象度が高くて大変なんじゃないですか?
清田:指名の有無よりも、新聞相談の場合は「目の前に相談者さんがいない」という点が大きいかも。その場にいればいろいろ質問もできるけど、それができないから、とにかくお便りに書かれていることが全てで。だから、相談文をいったん徹底的に読み込んで、そこに書かれていることをまずは論理的に理解する。現代文のテキストを読解するように、「ここは逆説になっている」とか「この指示語はどこを指すんだろう」、「この文とあの文はどういう因果関係があるのか」みたいなことを読解してみないことには回答に移れない。相談者さんはいま、何にどう悩んでいるのか──桃山商事ではそれを「現在地」と呼んでいるんですけど、それを読者と共有した上で、お悩みの核となる葛藤や疑問、不安を自分なりに読み解いていくことが大事だと考えています。

ー答えるよりも読むほうが大事だと。
清田:新聞に限らず、メディアでの人生相談には読者やリスナーという“オーディエンス”がいるじゃないですか。だから、相談者・回答者・オーディエンスという三角の関係になる。回答者としては、そのどちらを向いて答えるのかが重要になると思うんです。例えば“疑似回答者”の立場になる読者には、「相談者に助言したい」「なんなら説教したい」という欲望があるかもしれない気がしていて。持論を展開したくてウズウズし、こちらにその代理人を期待している可能性も大いに考えられます。
ー公開処刑の執行人のような。
清田:極端に言えばそうですね(笑)。実際にはそんなこと思っていない読者もいっぱいいるんだろうけど、悩みで弱っている相談者を欲望のままサンドバッグにしてスカッとするみたいなことを期待されてるし、そういうコンテンツを作れば数字も取れると思うんですよ。でも、人生相談は見せ物じゃないし、そこには抗っていきたい。だからこそひたすら相談文を読解し、先の話で言う「危うい楽しさ」が発生する余地がないほど論理的に話を進めていくしかない。
ーコンテンツとしての人生相談だけじゃなく、相談の裏を読んで答えようとする人もよくいますよね。なんなら、そういうアクロバティックなものほど「いい回答」だと思っている人も多いんじゃないかと。
清田:なんか深い感じがしちゃいますよね。でも、書かれてあることをすっ飛ばして行間を読んじゃいけないと思う。そういうことを言いたくなる気持ちもわかるけど、踏みとどまる倫理が必要というか。