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男は見透かされ、名前をつけられ、共有されている
ー清田さんの著作を読んでいると、男性という他者として女性の話を聞いていくうちに、そこに不在であるはずの「男性」の輪郭がかえってはっきり見えるようになっていったんじゃないかと思うんです。
清田:恋愛で悩んでいる女性の話には、必然的に男のダメなエピソードがたくさん出てくるわけですけど、「うわ、俺も同じようなこと言っちゃってるかも」みたいな瞬間がめちゃくちゃあるんです。本当に“あるある”のように、似たような男の言動がどんどん出てくる。それを聞くにつれ、「なんでみんな同じ行動をするんだろう」という不思議な気持ちと、「自分も同じ穴の狢であるという」という恥ずかしさが蓄積していって……。

清田:そこで思ったのは、恋愛とか夫婦関係の中で男が見せている顔って、男同士の関係では絶対に見えない。友達としては最高にいいやつでも、妻や彼女の前だとモラハラ男になっていたりする。そういうのって怖いし、滑稽でもありますよね。
しかも、女の人たちって男のそういう行動を友達同士でめちゃくちゃ喋ってるっぽいんですよ。変なあだ名をつけたりして。
ーあだ名?
清田:ガールズトークの中だけで流通しているミームというか、それがめちゃくちゃクリエイティブで。桃山商事の番組でも「男が知らない男のあだ名」という特集をしたことがあるんですけど、例えば性欲がものすごく強くて、セックスのたびに必ず4回はする彼氏のことを「ヨン様」って呼んでるとか、計画性のない夢追い人な元カレのことを「少年ジャンプ」って呼んでるとか、どれも切れ味がすごい(笑)。こういった言語化能力で言えば、男性と女性はアマチュアとアスリートくらい違うんじゃないかと思うことも……。
ー男性中心の社会の中で、バレてはいけない隠語として発達してきた側面もあるでしょうし。
清田:そうですね。自分たちが男性優位な社会でふんぞり返っている部分を、女性たちに全部見透かされ、名前をつけられ、共有されているんだなと。こういう場面を知るにつけ、女性に聞いた話から見えてきた男性の典型的な行動パターンを類型化してまとめたのが『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(2019年 晶文社)という本です。
さらに、自分もシスジェンダー、ヘテロセクシャルの男として、今度は自分自身を振り返ってみようと書いたのが『さよなら、俺たち』(2020年 スタンド・ブックス)。そこから「じゃあ、男性たちは何を考えながら生きてるんだろう」と気になって、どこにでもいるようないわゆる「普通」の男の人に話を聞いたのが『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(2021年 扶桑社)ですね。男性の話を聞いていくうちに、滲んでくるジェンダーの問題まで興味が広がっていき、男性性をテーマにしたものを書く機会が増えていきました。

ー清田さんのように、「自分自身の足元を確認できる」ことに楽しさを感じることができれば、踏み込んだコミュニケーションをしても暴力的になりづらいのかなと。
清田:そんな立派な人間では本当にないんですが……「おしゃべり」という営みの重要性に気付けたのは大きな発見でした。ファミレスで誰かと雑談するとか、身の上話を聞くとかでいいと思うんです。何をやってるかに限らず、性格とか思想とか、挫折や葛藤、紆余曲折を聞いてると、「自分にもそういうことがあったな」と、互いに何かが引き出されていく。そうすると、相手だけじゃなく自分への理解が深まっていくような感覚があり、それがグッとくるんですよね。