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パンクとしての恋バナ
清田:ちゃんと実践できているかはわからないけれど、多少なりとも「危うい楽しさ」に自覚的になれたのは、ユニット活動としてやっていたことが大きいと思うんです。恋愛相談を聞き終わった後、メンバーで居酒屋に行くのが習慣だったんですが、「今日の相談ってあそこがポイントだったよね」「俺らのあの発言はよくなかったかも」って、リプレイみたいに振り返るのが楽しくて(笑)。
ー反省会を重ねることでブラッシュアップしていったと。
清田:それはあったと思います。女子をチヤホヤして、相手の男をこき下ろすことで「俺たちはそういうやつとは違う、俺たちはイケてる」という自己陶酔が初期は確実にありましたが、そこを戒めていこうってなれたのも、反省会を重ねたことが大きかったと思います。「楽しいは楽しいけど、恋愛相談は俺たちが気持ちよくなる場じゃない」という認識を共有できたのはよかったなって。

ーしかし、チームでやることによって、そういった「危うい楽しさ」がブーストされる可能性もありますよね。ホモソノリというか。
清田:当時、スーフリ(※)が話題になってたんですよ。早稲田大学を活動拠点にしていたこともあり、我々も「スーフリみたいなことやってるんでしょ?」とよく言われてて。それもあって、余計に正反対のマインドになっていったところがあったように思います。
その後も「失恋した女子の相談に乗る活動なんて怪しすぎる」「弱みにつけ込んでセックスするのが目的なんでしょ?」ってことあるごとに聞かれましたが、こちらからすると、失恋して落ち込んでる人に欲情する気持ちが本当にわからない。実際に会ってみると、どんより落ち込んでいたり、ときに泣いてたり怒ってたりしてるわけで、そこからいいムードになるなんて絶対にあり得ない。
※早稲田大学のインカレイベントサークル「スーパーフリー」。集団での性的暴行が常習化していたことが2003年に明るみになった。
ーポッドキャストで、桃山商事を始めた頃は「(恋バナは)パンクでありロックである」という心持ちだったとおっしゃっていました。社会的にはろくでもないと思われている事柄にあえてスポットライトを当てるということだと思うんですが、そういう背景があったからなんですね。
清田:誰にも理解されないし怪しまれるし、もっとポップなことをやりたいって気持ちはあったんだけど、大まじめに恋愛相談に耳を傾ける活動が謎に面白かったというか。「こんなこと誰もやってないだろ」って、そういう反抗的な気持ちがありました(笑)。
ー一昔前まで「恋バナは真剣に扱うものじゃない」というのが世間の認識だったんですね。
清田:そうですね。雑誌に載ってる軽薄なコンテンツというか、恋愛がテーマのフィクションもベタなものばかりで、おしゃれでもクリエイティブでもないというようなイメージ。でも、現実の体験談には打ちのめされるようなものがたくさんあるんですよ。それでも、恋バナ収集や恋愛相談をやっているというと鼻で笑われる感じでしたね。桃山商事としてアウトプットするようになってからも「男がする恋バナって『モテるテクニック』みたいなやつでしょ?」みたいに言われてました。自分でも説明しづらかったです。

ー現在は「恋バナ収集ユニット」という看板を下ろしています。
清田:一時期は毎日のように、休日となると2、3人と会って話を聞いたりしてたんです。一人と2時間会うので、それが続くとヘトヘトになって(笑)。めちゃくちゃ楽しかったし、できれば今も再開したいんですけど、子育てとか仕事とか、コロナ禍もあってそれぞれ物理的に時間が取れなくなってきてしまって。あと、我々が40代に入り、恋バナっていう年齢でもなくなってきて。最初は60代になってもずっと恋愛の話をしてるのが面白いかなと思ってたんだけど、リアルタイムの話ができなくなってきて、気付いたら過去の恋愛エピソードを擦り倒してるなと。
あとは、セクシャリティやジェンダーについての議論が社会的に進むにつれて、今まで我々が無邪気にしていたのは異性愛前提の恋バナだったことにも気付かされたのも大きかった。そういう諸々もあって、恋バナをメインに据えて活動することに疑問が生じていき、「恋バナ収集ユニット」という看板を外して2024年の夏にポッドキャストもリニューアルしました。