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金より健康へのパラダイムシフト
ーラッパーに限らず、ビジネスで成功した人は強いキャラクターを打ち出すことが多いですよね。その強さに惹かれて集まる人も多いんだけど、いつか折れてしまう危険性もあるわけで。
マキダシ:何を強さと捉えて、何を守りたいのか、ということだと思うんです。かくいう僕も、昔は医師免許を持ったラッパーとしてもっと好き勝手にやるつもりだったんです。
でも、20代中盤くらいから精神の健康を一層重要視するようになって、やりたくないことを意識しはじめたんですよ。「病んでまでこれをやりたいのか?」という。音楽の世界も数字第一主義になってますけど、そのために無茶をするのも不健全じゃないですか。まあ、健全なものは地味に映ってしまうから、なかなかバズらないという問題はありますけど(笑)。
ーミュージシャンの人気を示す数字はいろいろありますが、2000年代まではその最大値が「CDセールス100万枚」だったと思うんです。それが今は「5億回再生」とかになってるので、桁が全然違うんですよね。何億というのは、1人のアーティストが背負える数字なのかという。真摯に向き合ってバズろうとすればするほど病むのは当たり前な気もします。これはアーティストに限った問題ではありませんよね。
マキダシ:病院に来る人でも、そういう承認欲求系の話は飛躍的に増えてます。「SNSでいいねが貰えないから死にたい」というような人も本当に多いです。自分もアーティストなので、聴かれたり見られたりする喜びはわかるんだけど、心への負担は無視できない。僕は精神の健康を第一に考えて、折り合いをつけてやってるつもりではいるんですけどね。世の中に「メンタルヘルシー」ブームが起きればいいのにと、冗談抜きで思ってます。
ー健康なやつが一番かっこいい世界。
マキダシ:そう、金よりも精神の安定の方が上。そういうパラダイムシフトが必要だと思いますね。すごく根源的なことなので。

ーマキダシさんには精神科医、ラッパー、怪談作家という異なった面があって、そのバランスの中で落としどころを探しながら生きているということですよね。例えば、ラッパーの面しかなかったらバズとかメイクマネーの方向に突っ走っていたかもしれないし。さっきの話に引きつけると、それは強さかもしれないけど、同時に脆さでもあるという。誰しもそうやって自分の多面性に自覚的になれれば、いい着地点が見つけられるのかなと。
マキダシ:アイデンティティの掘り下げというか、自分がどういう人間でどっちを向いて歩いているのかというのは常に考えますね。やっぱり、自分の幸せは自分をめちゃくちゃ研究しないと手に入らないものなので。でも、それがわからない人ばかりだと思うんです。みんな忙しくて、自分のことを考える時間もなかなかないだろうし。幸い僕は浪人中というザ・モラトリアムな時間に死ぬほどそれを考えられたんですけど(笑)。”アンパンマンのマーチ”に<なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶ>という歌詞がありますけど、ここにもう人生の答えがありますよね。
ーそれを考えてこそ、人の相談にも乗れる、というか。
マキダシ:人の話を聞いたり、仲間を救い上げたいと思うからこそ、自分がまず幸せにならなくちゃなと常々思ってます。犠牲の上に成り立つ優しさなんてものは不健全だし、どこかで破綻しますから。

トラウマ怪談録 精神科医が語る本当に怖い話

竹書房怪談文庫
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ISBN: 4801944019
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