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精神科医、ラッパー、怪談作家。Dr.マキダシの「分人的」人生相談論

2025.12.25

#MUSIC

誰でも治療のラインに乗せればいいというわけではない

ー誰かの相談に乗っていると、精神的に相当つらそうだなと感じることがあるんです。そういう時に「鬱なんじゃない?」なんて軽々しく素人診断しちゃいけないというのは、徐々に常識になりつつあるとは思うんですけど、ではどこまで踏み込んでいくのか難しいなと思うんですよね。それこそ、「クリニックに行ってみれば?」と言っていいのかどうか。

マキダシ:すごく難しいですよね。僕も人生相談に乗ることはありますけど、まずは相手がどこまで求めてるのかを見極めるようにしてます。僕個人としてなのか、医者としてなのか。個人として話を聞くときは「私はこの病気ですか?」と具体的に病名を出されたとしても、「否定はできないけどちゃんとクリニックに行ったほうがいいよね」という感じで答えるようにしてます。お茶を濁す感じになっちゃいますけど、どうしてもその場ですぐには判断できないので。

医者としての発言となるとすごく責任が発生しますから、診療の場で話を聞くのが適切だと思いますし。診療を受けたいのであれば、クリニックに来てもらうこともあります。でも、治療のラインに乗せることがその人のためになるかどうかも考えなくてはいけないので、複雑ですね。

友達から相談を受けたとして、そこから主治医と患者という関係性になると制約が生まれることもあるんです。だから、必ずしも僕が診るのがベストとも限らない。診療への誘導もケースバイケースで悩むんですよ。

ー親密さが足枷になることもあるんですね。前回お話を聞いた西寺郷太さんも「親切にしてた人が、それを止めた時にめちゃくちゃ揉めるらしい」とおっしゃってました。治療を進める中でなかなかうまくいかなくなると、今まで近い関係性だった分、反転しちゃうこともありそうです。もう友達には戻れないというか。

マキダシ:それは絶対にあると思います。だから、親身に話を聞くし精神的なことの知識もあるけど、あくまでもただの友達、というのがベストな関わり方なのかなと思いますね。ただ、その関係性を100人と持つことは難しいので、自分が責任を持てるキャパシティを意識します。ステージ上でならいくらでも適当なことを言えるんですけど。

ーラッパーと医師の職業倫理の違いですね(笑)。

マキダシ:そうです(笑)。自分の人生の中で「医師としてはこれくらいだったらちゃんとやれる」ということを常に調節してる感じです。でも、ラッパーとしてMCバトルに出ていた経験は診療に活かされてるんですよね。患者さんの中には圧が強い人や、すごい剣幕でくる人もいるんですけど、僕はバトルの現場で慣れているので。大勢のお客さんの前で悪口言われますからね、相当な負荷ですよ(笑)。

ーしかも、バトルでは事前に用意してきたパンチラインをこれみよがしに繰り出すと冷めるじゃないですか。ちゃんと相手の内容を受けてラップしないといけないから、傾聴しないといけないですもんね。

マキダシ:韻を仕込んでくること自体は悪くないんですけど、出し方が下手だとすぐバレますね(笑)。診療でもある程度決まったことを説明する必要があるんですけど、自然な流れを作った上で話す方がいいと思うんです。そういうことも含めた胆力はバトルで鍛えられた感じがします。

ー人生相談でも「この人、他でも同じこと言ってるんだろうな」と思われたらあんまり良くないですよね。自分なりの決めフレーズみたいなものがあってもいいけど、それだけ言えばいいというものではないと。

マキダシ:そう、ムード作りというか、話の持っていき方が大事になってきますね。

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