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個人的な悩みも、社会に開かれていく
瀧波:私が好きなメル・ロビンズという50代のアメリカ人女性インフルエンサーがいて、モチベーショナルスピーカーという肩書きなんです。彼女は「5秒ルール」(やる気を出したいときは5カウントしてすぐ行動する)とか、「毎朝鏡の中の自分とハイタッチして自己肯定感を高める」とか、いろいろなやり方を教えてくれて、分厚い本を何冊も出してるんですよね。でも、元々は仕事もうまくいかなくて、夫の事業の失敗で借金を背負って、子育てのプレッシャーもあって酒に逃げていたと。そういうところから彼女のストーリーが始まるから、「私にもできるかも」という気になれるんです。
ーダメなところから出発しているから、ハードルが下がるんですね。
瀧波:そう、やっぱりダメを打ち出すことは大事なんですよ。借金の一つや二つ背負ってないと(笑)。
メル・ロビンズのポッドキャストなんかを聞いていると、よくネタ切れしないなと思うくらいTips(ヒントやコツ、秘訣)まみれなんですよ。実際にやるやらないは関係なく、こんなに簡単なことで前向きになれるんだなと思えるんですね。個人の悩みに焦点を当てるよりも、Tipsを振りまいたほうが時代に合ってるのかもしれないなと。
ー相談者の悩みに向き合いつつ読者の役にも立つように、という瀧波さんの人生相談メソッドとも通じますよね。
瀧波:そうですね。最近、TikTokにフェミニズムの話をしているショート動画をアップしているんですけど、「こういうことで悩んでない? それにはこういう構造があるんだよ」という内容を無理矢理1分にギュッとまとめてて、人生相談に近いなと思ったんです。個人的な悩みでも、元をたどれば似てくるんですよね。
ー同じ構造の中で暮らしてるわけですもんね。
瀧波:だから、人生相談も最初はすごく長い文章で答えてたんですけど、それもいらないのかなと思うようになって。ショート動画みたいに圧縮したものをみんなに届けたほうが早いのかなという気がしてます。
ー瀧波さんの漫画も文章も、個人的なことから始まって社会に開かれていくところが共通していると思います。人生相談は、相談者の悩みを解きほぐして、その過程を読者にも共有することで、ちょっとでも社会を良くしようという、最小単位の社会運動というような側面があるのかなと。
瀧波:講演では「とにかく女性は自分を後回しにしすぎる」という話をするんですね。家族をはじめいろんなケアを担わされてるけど、それをしないと決めることで次の世代が変わっていくんだよと。ここでみんな「おー!」ってなるんですけど、「でもまずはあなた自身のためだよ」と言うんです。みんな、社会を良くするためには動けるけど、自分のためだと動けないんですよ。それ自体が性差別の副産物だなと思いますね。

ー自分のために何かすると罪悪感を覚えるシステムがあると。
瀧波:個人的なこと、プライベートなことに留めちゃうと「私が我慢すればいいや」になっちゃうから、周りのために動く性質を利用する。そして「あくまでも、あなたのためだからね」と念を押す、というのが私のスタイルです。
『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~(7)』

講談社
アフタヌーンKC
発売日:2025年06月23日
定価:792円(本体720円)
ISBN:9784065396339
詳細・試し読みはこちら
https://www.kodansha.co.jp/comic/products/0000413415