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なぜ私達は運転するとき、リズミックな音楽を好んで聴くのか
以下はちょっとした私見というか補足になるが、この映画のサウンドを「体感」している中で改めて思わされたのは、なぜ私達は自動車を運転するときに、リズミックな音楽を聴くのを好んでやまないのだろうかということだった。
もちろん、F1®の凄まじいスピード世界が、単なる車好きの一般ドライバーである私が普段体感している世界と全く隔絶したものであることは分かっているつもりだ。しかし、たとえモータースポーツの世界に普段縁がないとしても、自動車という機械構造物を駆って走り抜けるとき、何か調子の良い音楽がかかっているとその爽快感がいや増すことを否定する人は少ないだろう。その「爽快感」の背景には、おそらく私達人間が、煎じ詰めれば単なる機械でしかないはずの自動車の駆動音に、否応なく生命のリズムを重ね合わせてしまうという、音響心理学的な習性にあるのではないだろうか。もっと根源に迫った言い方をするならば、私達がなにがしかの律動的な音の連なりに、「拍節」という概念を見出してやまない――つまり、それを「音楽」という存在として認知してしまう習い性こそが、自動車の運転時における様々な音や風景の把握にも適応されているのだろう、ということだ。

表現を変えれば、自動車(という機械構造物)は、その宿命としてはじめから既に「音楽的」なのだ、といえるかもしれない。であれば、その自動車界のトップ・オブ・トップを占めるF1®という存在は、何にもまして「音楽的」だということになる。コシンスキー、ジマー以下本作のクルーたちは、鋭敏な直感力と卓越したプロフェッショナリズムによって、そのことを誰よりも深く理解していたのではないか。爆走するフォーミュラ1カーの姿と劇的なサウンドの饗宴が刻まれた本作、映画『F1®/エフワン』は、わたしたち観客を、「リズム」という概念の成り立ちの地点まで、ものすごいスピードで連れ去ってくれるのだ。
『F1®/エフワン』

2025年6月27日(金)全国公開
監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:ブラッド・ピット、ダムソン・イドリス、ケリー・コンドン、ハビエル・バルデム
配給:ワーナー・ブラザース映画
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