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『1975年のケルン・コンサート』解説 キース・ジャレット名盤の舞台裏を描く映画

2026.4.8

#MOVIE

「ジャズ史のお勉強」パートは、なぜ必要だったのか

その中で、個人的に最も興味を引かれたのが、先述した架空のジャーナリスト=マイケル・ワッツがジャズの歴史を簡単に説明するドキュメンタリー(風の)パートだ。彼はまず、カウント・ベイシー・オーケストラの“Jumpin’ At The Woodside”の演奏を紹介し、バンドリーダーによってあらかじめ決められた編曲、そして長さの決まったソロを披露するビッグバンドジャズからの歴史的変遷を説明していく。スモールコンボ化を経たビバップのスタンダード再解釈からポストバップ〜フリーへ……という説明は、まさにジャズの教科書通りといったところだが、その分初心者にもわかりやすい内容となっていると言えるだろう。そして、このような説明が挟み込まれることで、アンサンブルを排した単独の完全即興演奏を行うキース・ジャレットが、歴史的に見てどれだけ革新的な存在だったかということが、即座に理解できる仕組みになっているのだ。

キース・ジャレット(ジョン・マガロ) / © Wolfgang Ennenbach / One Two Films

素朴な見方をすれば、この文字通り説明的なパートは、劇映画としては不要にも感じられる。しかし私は、本作が提示しようとしている最も重要なテーマにとって、ぜひとも必要なパートだと感じた。

どういうことか。つまり、ここで語られているジャズの歴史が、そのまま20世紀文化とサブカルチャーの精神史的なアナロジーになっているのではないか、ということだ。当然、そうした読みはあまりに単線的であること、さらにはビッグバンドジャズ(以前の実践)があたかも「保守的」な存在であったかのような重大なミスリードを誘う危険性があることは、先に指摘しておかねばならない。だが、おそらく監督のイド・フルークら制作陣は、そのような危険を承知した上でもなお、20世紀後半に現れた新世代の女性たちが、様々な「決まりごと」や「フレーム」を掻い潜りながら、一個の実存的存在として「個人的=政治的」に、かつ「即興的」に生き抜くことを要求され、なおかつそれを主体的に実践しようとした様を、ジャズの歴史の(当時の)先端に位置するキース・ジャレットの誇り高き独奏のありように重ね合わせようとしたのではないか……? 私にはどうもそう思われるのだ。

※その意味では、終盤部に「古い」ジャズの巨匠であるデューク・エリントンの含蓄に富んだインタビュー映像が挿入されるのは、そうした「危うさ」へ収斂してしまうことへの牽制と読むこともできる。また、ジャレットの即興演奏との対立軸で捉えられるべきは、むしろ劇中で上演されているアルバン・ベルクのオペラ『ルル』に代表される20世紀前半のクラシック音楽〜現代音楽なのかもしれないが、その『ルル』自体がそれ以前のオペラにくらべきわめて先鋭的だったという事実に照らすと、これもまた一概には言えなくなりそうだ。

© Wolfgang Ennenbach / One Two Films
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