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『1975年のケルン・コンサート』解説 キース・ジャレット名盤の舞台裏を描く映画

2026.4.8

#MOVIE

物語を彩るクラウトロックとジャズ

こうした歴史的な展開を描き出す背景装置として、やはり大きな演出効果を発揮しているのが、ポップミュージックの存在だ。

ただ、許諾が得られなかったという事情から、本作内ではキース・ジャレット本人の演奏音源は一切使われていないということを先に述べておかねばならない。普通ならば、特定のミュージシャンを題材とする音楽映画にとってこれは致命的な障壁となるはずだが、本作では結果としてその「不在」がうまく機能しているように感じられる。その穴埋めをするように、というわけでもないかもしれないが、要所要所で流れる既存音源の数々が、実によい効果を発揮しているのだ。

まず、先述した「カウンターカルチャー」以後の空気を瞬時に立ち上げる存在として何より印象的な役割を担っているのが、いわゆる「クラウトロック」と呼ばれるドイツ産ロックミュージック――CANの“Mother Sky”、NEU!の“Hallogallo”などだ。

イザが、CANのバンド名の由来を「Communism(共産主義)」、「Anarchism(無政府主義)」、「Nihilism(虚無主義)」の頭文字を並べたものだと説明する下りをはじめ、これら一連のバンドの音楽が使用された箇所は、反復的かつ陶酔的なそのサウンドが当時の一部若者たちに対して持っていたであろう政治的な意味合いを、強く訴えかけることに成功している。中でも、地元ケルンの急進的な演劇学生を中心に結成されたFloh de Cologneによる“Sei ruhig, Fliessbandbaby”の存在感は強烈だ。権威主義的な家父長と彼に対立する子供のダイアログ形式を取るこの小曲は、まさに劇中におけるブランデスたちの気分をそのまま代弁するような存在として用いられている。

では、ジャズはどうか。言うまでもなく、随所に用いられている。マイルス・デイヴィスの実際の演奏記録映像をはじめ、カーメン・マクレエが歌う“Inside a Silent Tear”や、クライマックスを飾るニーナ・シモン(ここにフェミニズムの思想が含意されているのは明らかだろう)の“To Love Somebody”、さらにはジャレットの生演奏を模した(その勇気に敬意を表したい)スイスのピアニスト=ステファン・ルスコーニの独奏など、様々な演奏音声が使用されており、ジャズファンならばいちいち盛り上がらざるをえないだろう。

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