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オープニング / エンディング曲“Happy Together”の不穏さ
本作には沢山の既存楽曲が使用されている。Big ThiefやFirst Aid Kit、Waxahatchee、コートニー・バーネットなど、インディーロック〜フォーク系の楽曲が目立っているが、その中でも最も印象的な存在が、冒頭とエンディングに使われている曲“Happy Together”だ。
“Happy Together”は、元々はアラン・ゴードン&ゲイリー・ボナーのコンビが書き、米カリフォルニアのフォークロックバンド=The Turtlesが取り上げて1967年に大ヒットした曲だが、本作では、The Banglesのスザンナ・ホフスとシンガーソングライターのルーファス・ウェインライトが新たにカバーしたバージョンが使用されている。
タイトルだけをみると、幸せなカップルの心情を描いたラブソングに思われるかもしれない。しかし、憂いを帯びた短調の響きからも察されるように、実際には成就の難しい一方的な愛を妄想混じりで歌っている曲と解釈するのが正しい。要するに、“Happy Together”という状態を歌っているのではなく、“Happy Together”への切実な願望と、その叶い難さが歌われている曲なのだ。歌詞の一部を引こう。
10セントを使って君に電話したなら
——“Happy Together” 筆者訳
私は貴方のものだと言って 僕を癒やしてくれるね
考えてみて 世界はどんなに素晴らしいか
二人が一緒なら幸せになれる
僕と君 君と僕
サイコロがどう出ようと 決まったこと
僕にとっての唯一人の人は君 君にとっての僕もね
二人が一緒なら幸せ
一緒なら幸せ
一緒なら幸せ
一緒なら幸せ
一緒なら幸せ
改めて歌詞を味わってみるとかなり不穏な空気の漂う曲なのだが、それだからこそ、この映画のテーマにフィットしていると感じる。オリジナルのThe Turtles版が男声のみによって歌われていたのに対して、絶望的なすれ違いの様を巧みに表現するように、女声・男声のデュエットで歌われているのも効果的だ。
