メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES
その選曲が、映画をつくる

『メドゥーサ デラックス』変死体をめぐるミステリーとディスコの意外な交歓

2023.10.11

#MOVIE

© UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021
© UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021

少数ながら効果的な、既存のポップソング使用

音楽も素晴らしい。オリジナルスコアを担当するのは、FKA twigs等との仕事でも知られるウェールズ出身のプロデューサー、Korelessだ。

パーカッションや電子音を環境音と巧みに交錯させていくそのトラックは、抑制的な前半からクライマックスへ向けて徐々にダイナミズムを増していくことで、強いリアルタイム性と流動性を発揮する。

そして、既存のポップソングも、(かなり限定的な数とはいえ)特異な効果を挙げている。まず観客が耳にすることになるのが、コンテストの主催者レネのスマートフォンから流れる着信音=Pet Shop Boysの“West End Girls”(1985年)だ。この曲は、かつて監督のハーディマンが美容師である母の元へ車で向かう際に聴いていた思い出の曲なのだという。

映画がクライマックスを迎える中で流されるいくつかの既存曲も大変効果的だ。まず、プロット上においてもっとも重要と思われる終盤の「時間移動」のシークエンスに流されるのが、ガラージ・クラシックとしても知られるゴスペル・ディスコの名曲=ジョバート・シンガーズの“Stand On The Word”(1985年)だ。

モスカの恋人アンヘルが悲嘆に暮れながら会場に戻っていくそのシークエンスにおいて、一瞬の静寂の後に流される同曲。ここで観客は、知らず知らずのうちに(ワンショットの持続効果に気を取られているうちに)物語の時間軸が大きくズラされていることに気がつくだろう。あの無惨な事件が起こらなかったパラレルワールド? あるいは……? ピアノが主導するイントロに続いて四つ打ちのビートとコーラスが現れると、見事なまでに映画の雰囲気が刷新される。ここでの音楽の使い方は、あまりに鮮やかで、野心的だ。

この曲にはもう一つの仕掛けが施されている。最初は画面外で鳴る劇伴音楽=アンダースコアであるかのように流される同曲だが、場面が進んでいくにつれて私達観客は、コンテストに参加した一人の美容師が自らのステージの演出のために用意したものだったと気付くのだ(つまり、映画の中で「実際に」鳴らされている音楽=ソースミュージックだとにわかに気付かされることになる)。

© UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021

その後映画は、ある人物の告白を経てラストへとなだれ込み、そのままエンドクレジットへ繋がっていく……と、ここでもディスコの名曲=米マイアミのソウルシンガー、ジョージ・マックレーが1974年に放った大ヒットソング“Rock Your Baby”が流れる。馴染みあるリズムボックスの音に耳を傾け映画の余韻に浸っていると、しかし突如として次の曲=同じジョージ・マックレーによるややマニアックなシングル曲“Don’t You Feel My Love”(1979年)がカットインミックスされるのだ(ディスコエディットされたリミックス版であるというのにも注目)。そして、再び画面が明るくなり、まるでミュージカルのラストシーンのような、(ラメをあしらった1970年代風のコスチュームに身を包んだ)演者全員が揃った上でのダンス饗宴が繰り広げられるのだ。

© UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021
記事一覧へ戻る

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS