INDEX
「なにげない日常」とわざわざ形容されなくなってよかった
柴崎:いい方に変わってきてるなと思うこともあって、私がデビューしたぐらいのときは、男友達みたいな関係性も説明を求められることがあったりしました。男女が二人で部屋にいてしゃべっている場面が小説にあると、「なぜこの二人は恋愛関係にならないんですか?」と聞かれたりとか。
オカヤ:恋愛って強いんだなと思いますよね。
柴崎:そう。フィクションの中で磁場が強い。いまはもう、なぜ恋愛や性的な関係にならないかをことさら言われることはなくなったよね。
オカヤ:恋愛以外のことを考えていていいんだ、描いていいんだ、というのは、それこそ大学生ぐらいの頃に柴崎さんや長嶋有さんの小説を読んで、背中を押されたところがあります。「日常の中で物事を見て、何かを思って、そのことを書いたら面白いんだ。よかった!」と思わされた感じはすごくありましたね。
柴崎:そういう小説を書くことについて、最初の頃はよく質問されたりしたけど、いまはわざわざ言われないですね。よく「なにげない日常を書いてる」とひとくくりに言われがちだったんですが、先日作家の滝口悠生さんと対談したときに「柴崎さんたちの世代ががんばってくれたからか、僕たちは“なにげない日常を〜”みたいなことは特に言われなくなりました」みたいに言っていて、それはよかったなと思います。
オカヤ:そうですね。私がデビューした15年前くらいは、よく「ほっこり」と言われてびっくりしたんですけど。
柴崎:そうそう、「ほっこり」って言われるよね! それこそ自炊するっていうだけで「ほっこり」って言われるようなところがある。
オカヤ:恋愛や、奔放な性みたいなもの以外の価値が、特別なジャンルとかではなく、当たり前になってきてよかったです。
柴崎:そうね。男女の間には恋愛が基本設定みたいな時代からしたら、いまはいろいろあっていいなと思う。けど、私は根が天邪鬼だから、逆にいまみたいにフィクションでの恋愛の位置が低い感じになってくると、「恋愛は恋愛で書けるおもしろさがあるよ」みたいに思ったりもします(笑)。

書籍情報

柴崎友香
『帰れない探偵』
発売中
価格:2,035円(税込)
講談社