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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

初USツアーを終えて。憧れの幾何学模様が示した「生き方」を次世代へ繋げていくこと

2025.5.10

#MUSIC

4/25(金)

あれから数時間、空港のロビーの外に座り込んでチェックインを待った。ツアーの日々に想いを馳せていると、時間は簡単に過ぎ去ってしまった。

重い荷物を手分けして運び、チェックインカウンターに預けていく。出発の時の煩いが虚構に感じるほど、ユナイテッド航空の荷物受け取りはあっさりと終わった。追加料金はなかった。

身体的にも精神的にも身軽になった僕たちは、軽やかに搭乗口へと向かった。またそこでも搭乗まで3時間ほど待たなくてはならない。変な行程を組んでしまったものだ。溜まっていたジャーナルを書いて過ごすことにした。

最初の飛行機はまず、ワシントンD.C.へと向かった。狭すぎる席で疲労感が促進される。持ってきた小説も、ダウンロードした映画もアニメも、不思議と見る気にならないのは、思い出の過剰摂取のためだろう。物語というのは、足りなくなった思い出の空隙に、差し込むためのものなのかもしれない。

ワシントン空港では飛行機が遅れ、1時間ほど余分に待たされた。アメリカで食べる最後のサンドイッチを頬張りながら、時を待つ。バンドは疲れ切っていて、ほとんど会話がない。ここまできたら、早く日本に帰りたいという思いが爆発する。

ワシントンD.C.から羽田への旅客機には空席が目立った。3列シートの窓際に座る僕の隣も空席で、通路側の方と分け合いながら、荷物を置いたり、足をはみ出してみたりして、少しばかり快適に過ごすことができた。

日本時間をこまめに確認しながら、過ごし方を調整する。ジェットラグを最低限に抑えるための努力だ。日本についてから、3日後には大阪東京を巡るライブが待っている。だらだら長引かせるわけにはいかないのだ。

窓の外の雲海を眺めながら、色々なことを考えた。3週間のアメリカツアーが終わったことも、まだ実感の外にある。というかそもそも、バンドで生活していること自体が、実感の枠から大きくずれている。

窓の外の雲海

海沿いの田舎町に生まれた音楽好きの3人組が、海を渡ってアメリカを旅しながら、出会った人々に音を鳴らす。各地の人々のドネーションでさらなる旅を続けていく。まるでジプシーじゃないか。僕が最もかっこいいと思っていた人々の生活を、何故か僕がしてしまっている。

僕らが大学生になりたての頃、幾何学模様という日本人のバンドが、海外でツアーをしながら生きていることを知った。それから僕らは、彼らの生き様そのものに憧れた。それは、それまで僕らが知っていた、システムの中で辛うじて生かされている音楽家たちとは一線を画す、自由自在な生き様だった。

これが絶対的に正解だと確信してから、彼らのインタビューや記事などを、英語だろうとなんだろうと読み漁って研究した。そして僕らもその生活を目指すため、新しい音源を作り始めていたところに、まさかの彼らから、何も関係のない僕らに連絡があった。自分でも、できすぎた展開だと思う。もし僕が物語を書くなら、こんなロマン主義的な筋書きはすぐに破り捨てるだろう。

そこから言われるがままにアルバムをつくり、キタさんとの奇跡的な出会いがあり、彼の支えがあって音楽の仕事だけでツアーに行ける資金を貯めることができ、そして今に至る。出会ってきた人たちのおかげで成り立っていることを実感する。どうしたって自分たちの能力でここまできたとは、信じられないのだ。

そんな、運と縁のみで生きている僕らには、そのエネルギーを次の世代に繋げなくてはならない義務があると思う。というかシェアしないとバチが当たる気がして、どうにも落ち着かない。どうにかできないかと考えた時、その一環としてこの日記連載をすることを思いついたわけなのである。

僕らはまだ3年目の新入生バンドだが、日本のシステムの中での活動も、一応している身として言わせてもらうと、やはり日本だけでの活動には少し無理があると感じる。少なくとも、僕たちにとっては。

それには色々な要因があるが、やはり大きいのは活動がルーティンワークに突入してしまうことだろう。自由を求め音楽家を目指していたはずなのに、いつのまにか似たような毎日を送り、似たような毎年のスケジュールをこなすことになる。自由はどんどん侵食され、状況をロールすることに必死になっていく。もちろん長くは続かない。それでも、支えてくれる人のため、愛してくれるお客さんのため、何より自分のプライドのために頑張るのだが、いつのまにか限界を迎える。

日本という場所や、そこに住む人々に責任があるわけではない。それはただ、誰かが構築したまま放置して凝り固まったシステムと、ピュアな責任感の食い違いが生み出す悪循環が原因なのだ。

これは僕の勝手な考えだが、幾何学模様はその悪循環の中に現れた「新しい意識」だった。

彼らは極めて合理的に悪循環の種を潰していき、完全に新しい道を生み出した。元々僕らが持ってるはずの自由な感覚を手放さずに、音楽家としての活動を続けていく道。彼らにとってそれは、DIYで世界中を飛び回り演奏することだった。いまではその経験を経て手に入れたノウハウを使い、代謝良く循環する、新しいシステムを構築しようとしている。まあ言うなれば、僕らはその実験体というわけだ。ありがたい。

これからの未来で、幾何学模様や僕らのような生き方に憧れ、同じような生活を送りたいと思う人が現れるかもしれないが、その誰もがGuruguru Brain(※)に所属し、彼らのサポートを受けられるわけではない(結局のところ、僕らをなぜ選んでくれているのかもわからない)。ただ、彼らが生み出し、僕らが受け継いだ「新しい意識」は伝染する。僕らはその媒介者なのだ。

※オランダ・ロッテルダムを拠点とする幾何学模様のGOとTOMOの2人によるレーベル。

僕らに残された使命は、その「新しい意識」が生み出したシステムが正解だったと、僕らの活動をもって証明すること。さらに、そのシステムを様々な人々に利用可能にすること。並びにそのシステムの多様な分立を促すことである。その使命のために、これからも色々な形式でノウハウを伝えていくつもりだ(もしもっと具体的に話を聞きたいという人がいたら、直接連絡をくれても構わない)。

熱くなってしまった。そうこうしているうちに、旅客機は着陸態勢に入っていた。

この時間はいつまで経っても慣れない。怖い。

日本に到着したら、もう本当のツアーの終わりだ。

日本では小雨が降っていた。湿度も気温も高い。亜熱帯地域に侵入した感覚がある。

預けた楽器などの大型荷物は、無事僕らの元へたどり着いてくれた。これでもう安心だ。

空港の外には僕らの旧友であり、VJをやってくれている江口くんがバンに乗って迎えに来てくれていた。どうもありがとう。次のヨーロッパツアーでは、彼もVJとして同行してくれることになっている。僕らの旅がまたアップデートするのだ。

これにて、3週間のUSツアーは幕を閉じたのだった。

迎えに来てくれた江口くん

さて、ここからは補足だが、最終的に収支はどうなったのだろうか。

これまでの連載でもある程度公開していたが、支出が常に変動していたため、紛らわしくないようざっくりとした額であった。

ではまず、支出から。

合計35,475.20ドル。日本円にして5,078,452円である。結局なんだかんだ500万円を超えていた。

そして売り上げはというと、合計36,833ドル。

日本円にして5,272,828円であった(ライブのギャラが9,500ドル、物販の売り上げが27,333ドルだった。物販は用意したほとんどを売り切って、シャツは250枚完売、レコードは440枚を売り捌いた)。

つまり今回のツアーでの収益は194,376円。

少なく思うかもしれないが、最初の絶望感からしたら万々歳という結果だと思う。本当によくやったと、褒めてほしい(本当に)。

ただ、3週間丸々仕事の日々で、1人6万の収益じゃ、実際のところどうしようもないだろう。不在の間の家賃は払えたかな、というくらいにしかならない。これからこのお金を元手に、少しずつ収益を増やしていきたい。次は家賃と生活費で1人10万円、次はそれを2ヶ月分、みたいな感じを目指していこう。

そして、仲間もどんどん増やしていけたら楽しいだろう。次はVJの江口くん。続いて写真や映像、音響も友人を連れて、大所帯になったらと考えるとワクワクする。そしてみんながそれで生活ができたら、ひとまず成功と言えるんじゃないだろうか。

どうやら旅はまだまだ続きそうだ。

旅が嫌いで、屋根の下で本ばかり読んでいた僕が、いつのまにか旅人として生きることに幸せを感じている。人はどんどん変わるみたいだ。

というより、旅が僕を変えてくれている。

みんなも少しずつ変わっていってるように思う。

これからも変わり続けよう、転がる石のように。

ーー終わり

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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