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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

疲れがピークに達するツアー終盤。収支回収もラストスパート

2025.5.8

#MUSIC

4/22(火)

次の日は移動のため、起床が早かった。後半の内陸移動は、移動距離が伸びてくる。この日のドライブも6時半ほどかかった。

サンタフェのTumbleroot Distilleryはバー併設のコンサート会場で、外には大きなテラスもある、なんともニューメキシコらしいお店だ。このくらい内陸に進むと、やはり砂漠とメキシカンの香りが強くなっていく。

サンタフェの会場・Tumbleroot Distillery

ロサンゼルス公演以降、なぜだか僕らの演奏は、どうにも生気がないように感じる。というか僕自身、どこにどう力を入れていいかわからなくなっていた。ほとんど休みもなく、2週間以上同じセットリストを繰り返していると、後半はこういった症状を抱え始める。

この症状を心のモチベーションだけで完治するのは難しい。僕はもうこれを自分では治せないと判断して、今日からの3本のライブは、「とにかく絶対にミスをしないで終える」という目標だけを持って、機械的に臨むことにした。

これをマンネリズムと言うのかもしれない。

ただ、やはり歓声には癒される。演奏のクオリティ自体は上がり続けているので、サンタフェのライブも大歓声の中無事終わることとなった。

物販の収益は、1660ドル(約24万円)だった。残る支出は1365ドル(約20万円)となり、これまでの平均収益でいうと次回のショーで回収できそうだ。

この夜は、またもやマイキーの友人(アメリカ国内にどれだけいるのだろうか)の家に泊まることとなった。

マイキーの友人コーディは、サンタフェに住むサーファーである。「サンタフェには海がないよね?」と聞くと、「彼は川で波乗りするんだ」と、マイキーが教えてくれた。コーディの家の中で僕らが使える寝具は、ベッドが1つとソファーが1つだけだったが、僕らはもうどんな状況でも寝られるほどに疲れ切っていたので、寝袋にくるまって眠りについたのだった。

4/23(水)

この日の朝が最も早く、7時半には家を出ることになった。終盤にしてかなり辛いが、マイキーが一番辛いだろう。僕らはどうにか車に乗れば、あとは寝て過ごすこともできる。彼は起きたら過酷な長距離運転が待っているのだ。

流石の彼も、顔に疲れが溜まっているのがわかる。ヨーロッパツアーの時に同行したツアーマネージャーのゼゼも、後半はこちらが心配になるほど疲労していた。ツアーマネージャーは、やりがいはあるだろうし、旅好きだと楽しいだろうが、かなり過酷な仕事だと思う。僕には到底無理だ。

後半の何日間か、グランドキャニオン以降の車内は、ほとんどを寝て過ごすか、寝転びながらジャーナルを書いて過ごしたので、これといった記憶がない。僕も疲れが溜まっているのだろう。車内の会話も少しずつ減っていく。

ずっとワイワイやりながらツアー生活を楽しめたらいいのだが、現実はそうもいかない。

逆に言うと、この沈黙を気にせず、各々が時間を過ごせるバンドの関係性というのが、大事とも言えるかもしれない。

次の会場、オクラホマにあるResonant Headは少し寂れた街角に佇む、ライブバーだった。ここの集客と収益次第では黒字を確定できるかもしれない。ほとんど無い力を振り絞ってサウンドチェックからライブを行う。お客さんは100人から150人程度だったし、田舎だったので僕らのことを知ってる人はまずいなかったが、すごく楽しんでくれたのが伝わってきた。

PAはおそらく、僕らほどの年齢の若い方だったが、ライブ中に踊りながら楽しそうに仕事してくれたのが印象に残った。

Resonant Headでのサウンドチェック風景

さて、小さい箱で集客もまずまずだったが、物販の収益が気になるところだ。この日で黒字を確定できたら、次の日のフェス『Austin Psych Fest』での物販収益をそのまま利益として換算できる。

結果は大成功。1380ドル(約20万円)の売り上げで、見事僕たちはこの日、アメリカツアーの収支を黒字にすることができたのだった。

この日の達成感といったら凄まじかった。

アメリカツアーを企画し始めた頃は、色々な人に「1回目は絶対に回収できないから、種まきだと思って頑張ろう」と言われてきた。

音楽をつくり、演奏をすることだけで、一生懸命貯めてきたお金が、ごっそり無くなったときは血の気が引いた。振り込みをするたびに、心も一緒に削られていくような気がした。本当に意味があるのだろうか? これは投資として正解なのだろうか? 生活費を切り崩してまでやることなのだろうか?

実はこういった疑問は、ツアーを始める時まで消えることはなかった。「経験をお金で買うと思えば」と自分たちを慰めていた。

しかし、黒字になってしまえば、もう何も思い悩むことはない。

アメリカツアーはこの日、完全に利益しかない企画に変貌したのだった。

ツアーの成功を喜び外で談笑する僕たち


※次回へ続く

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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