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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

チーコでまさかのレジェンドに遭遇。名残惜しいプルガを離れ次の街オークランドへ

2025.4.24

#MUSIC

15時になり、僕らはチーコへと向かうことにした。険しい山道をまた駆け降りていく。チーコへは、アンドリューとラフィも同行するみたいだ。ラフィーは車を怖がることはなく、後部座席で僕が寝ている隣に寝転んだ。窓からの光で眩しそうにするラフィを撫でながらのドライブはとても幸福だった。

眩しい光に目を閉じるラフィ

カリフォルニア州チーコは、長閑な雰囲気と内陸の熱気が混ざり合う、人口10万人ほどの小さな町だ。街に着き、オーガニックスーパーに立ち寄ると、今夜のショーを企画してくれたプロモーターにたまたま出くわした。彼は言う。

「なんでも好きなもの買ってくれ!」

僕らは遠慮を捨て、彼のカゴの中に100%ジュースやブルーベリー、オレンジなどのフルーツを入れた。なかなかの太っ腹だ。しかし、こういう時に買うものが自然と健康的なものになっていくのが、ツアーの体長管理の難しさを物語る。

ーパーマーケットのテラスでの集合写真。足元にはラフィー

チーコのArgus Bar & Patioは、バーレストランの屋外部分がライブスペースとなっている、150人ほど収容できる会場で、このツアーでは最小規模となる。チーコの街を覗いたが、150人も集まるかは疑問という感じだった。

特に何の問題もなく、搬入とサウンドチェックが終わると、プロモーターの彼が食事を用意してくれた。ここで食べたメキシカンタコスのライスプレートは格別に美味しかった。

鳥豚牛の3種の肉がのった、ライスプレート

会場がオープンし、DJがレコードでコズミックファンクを爆音で流し始めた頃、SONYの音楽人、古川さんが現れた。彼女はキタさんのマブダチで、いま現在進行形で敢行されている羊文学のUSツアーに同行するため、ここカリフォルニアに来ているのだ(時間があったら彼女らのライブを覗いてみたいと思ったが、運悪くオフと被らなかった。またの機会にしよう)。お土産のうどんのカップラーメンを片手に現れた彼女は、日本で会うよりもどこか開放的に見えた。

前回のポートランドのライブで、僕らのライブの後、物販コーナーに人がいないという問題があったのを思い出し、マイキーに暇な時間は遊んでてもいいが、ライブ後の時間はちゃんと仕事をするようにと伝えた。彼は快く受け入れてくれた。

思えばこれが、アメリカツアーで初めての野外ライブかもしれない。結局お客さんは大勢現れてくれて、大盛況に終わった。なんだかんだで、人が来るかという心配はいつも不必要みたいだ。

ショーの後、物販に立っているとマイキーが肩を叩いてきた。

「なに?」僕は答える。するとマイキーは、「ジョナサン・リッチマン」と言った。

なんでジョナサン・リッチマン? と思い見てみると、まさかの本人がそこにいた。若い頃のジャケット写真の彼がそのまま歳をとったという見た目で、すぐに本人だとわかった。彼はこの街で、レジェンドとして尊敬されながら余生を暮らしているようだ。僕らは握手をし言葉を交わした。何やら言われたが、エトランの演奏の音で全てかき消されてしまった。たぶん褒められたのだろう。そう思いたい。

ジョナサン・リッチマンと僕ら

結局今日の売り上げは、1294ドル(約18万4000円)だった。残りは8706ドル(約120万円)だ。小さい会場でも安定してボーダーを超えられている。このままこの調子で売り上げていきたい。

その夜はまたプルガにもどり、同じ寝床で朝を迎える予定だ。アンドリューとラフィも一緒に、また暗闇の山道をすすむ。

ライブで疲れ切った僕らは、オフィスで残ったメキシカンタコスを食べながら、楽しく会話をしていた。もう何年もプルガに住んでいるような気がする。ここには人をリラックスさせる不思議な力がある。言葉にこそ表れないが、僕らのくだらない会話の中には、明日の朝訪れる別れの気配を孕んでいた。

オフィスのソファでタコスを食べるマイキー

翌日の朝も快晴であった。水が使えない僕らは、冷たい川を風呂がわりに使った。いくら外気が30度を超えていても、上流の雪解け水は流石に冷たい。

今夜はオークランドでのショーが控えているため、昼にはプルガを出発しなくてはならない。アメリカツアーに来て、ここまで別れが惜しい土地は初めてだ。もしできるならまた訪れたいと思う。ラフィも別れが惜しいのか、いくら言っても車に乗り込んできてしまう。最後はアンドリューに引き摺り下ろされていた。

ちょうど出発するというときに、カメラを持ったバックパッカーがプルガに迷い込んできた。せっかくなのでアンドリューとの写真を撮ってもらうことにした。これも不思議な巡り合わせだ。アンドリューは最高の男だ。親切で優しく、丁寧で男らしい。プルガに咲いている美しい花を摘んでは、僕らに匂いを嗅がせてくれた。ありがとうアンドリュー。ありがとうプルガ。

アンドリューとラフィと僕たち

さて、次の行き先はカリフォルニア州オークランドだ。サンフランシスコから大陸側に橋を渡ってすぐの街。

実は、僕はここに昔来たことがある。それはまだ僕が20歳の時、サンフランシスコに留学していた親友を訪ねにきたのだ。2週間ほど滞在したので、オークランドやその隣のバークレーも訪れたが、見覚えがあるだろうか。

ラフィがいなくなり、広くなった後部座席。お守りを握り締めて到着を待つ

オークランドの会場・The New Parishは、吹き抜け2階建ての特殊構造で400人収容のライブハウスだ。着いてすぐ中を見て、そんなに人が入るか疑問になったのと、構造上音作りが難しそうだと感じた。時間もなかったのでサウンドチェックを始める。

やはり鳴りがおかしい。というか右側のスピーカーが鳴っていない。PAにそれを尋ねると「今直してる! 本番は大丈夫!」と言われた。よく見るとスピーカーの裏側には何やら工具で中身をいじってる人影が。こういうルーズさも、アメリカならではかもしれない(というかエトランはどうやってサウンドチェックをしたんだろう)。

New Parishでリハーサルをするエトラン

PAの彼の言うとおり、本番までにスピーカーは問題なく直ったようだった。

この日のショーで、高野と池田の2人が、ある曲の冒頭部分でシンセサイザーの音を暴発するという失態を犯したが、オークランドのお客さんはそこで大きな盛り上がりを見せた。こういうハプニングが逆に楽しいのかもしれない。グッとステージとフロアの距離が縮まった気がする。

オークランドでのライブの様子

ハプニングのおかげか物販も大盛況だった。Tシャツの在庫がほとんどなくなってきているにもかかわらず(週末のロサンゼルス公演の前に追加発注分を受け取る予定だ)、今日の売り上げは2026ドル(約28万8000円)だった。未回収の支出は、残すところあと6680ドル(約95万円)まで来た。とても順調だ。

明日はオフなので、今晩と明日の2日間は隣町のバークレーにあるマイキーの友人の家に泊まらせてもらうことになっていた。僕は少し心配になって、マイキーに「友達の家は大きいの?」と聞くと、「ソービッグ」と言った。僕は安心した。

しかしこの安心は見事に打ち砕かれることを、この時の僕は知る由もなかった。


※次回へ続く

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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