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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

ゴーストタウンの名前はプルガ。園田は電波の通じない街の移り変わりを知る

2025.4.23

#MUSIC

4/14(月)

連日の疲れからか、起きたら朝10時過ぎだった。ただ、これまでの疲れはこの睡眠で全て回復できた気がする。

眩しい光につられて外へ出てみた。この街の朝日は格別に気持ちがいい。そして何よりも暑い。Tシャツ1枚でも暑いほどなので、おそらく気温は30度近いだろう。

昨日夕食を食べた、この町でもっとも大きい建物(おそらくオフィスのような場所)に入ると、机には切られたパパイヤとスイカ、そしてグレープフルーツがあった。それをつまみ食いをして、フレッシュさに感動しているとアンドリューが現れた。

「美味しい?」

「めちゃくちゃうまい。どうもありがとう。ところでこの街はアンドリューが持っているの?」

「実は僕も借りているんだ」

その先の細かい話はうまく聞き取れなかったが、この街の名前は「プルガ」といい、アンドリューも長い間住んでる訳じゃないのと、彼はある女性から一時的にここを借りていることがわかった。そして、アンドリューの他にいた3人組も、僕らと同じようにツアーバンドで、名前を「Magick Portion」というらしい。アンドリューはここを借りながら、知り合いのツアーバンドや迷い込んだバックパッカーを無料で招待したり、アテンドしたりしてるようだった。

たんまりとグレープフルーツを頬張ったあと、外を散歩してみる。昨日はよく見えなかった全貌が見えてきた。ここは街というより、キャンプ場に近い。山の斜面には小さなバンガローが建てられ、ハンモックや船のようなモニュメント、トーテムポールなどが立ち並ぶ。

ジェネラルストアや郵便局と書いてある建物もあるから、街としての機能はあったみたいだが。

プルガの街並みと僕とマイキー

アンドリューにWi-Fiがあるか尋ねると、彼が寝泊まりしている部屋にあるというので、電波をお借りした。早速この街について調べてみる。

ネットの情報によるとこの街は非常に移り変わりの激しいユニークな歴史を辿っていることがわかった。

西部開拓時代より前は「コンコウ・マイドゥ族」という先住民族、いわゆるネイティブアメリカンが豊かな自然と共に暮らしていたが、1800年代になりゴールドラッシュの利権を求めたアメリカ入植者に土地を奪われ、それからはグランプ家とキング家という2つの一族がこの街を大きく発展させた。

1900年代に入るとキング家の勢力が高まり、「ビック・バー」と呼ばれる街を、現在のプルガの土地に設立。様々な雇用を生み出し、この土地の黄金時代を築き上げた。鉄道はこの時代に開通しているようだ。

1916年には正式に「プルガ」という名前がこの街につけられることとなった。しかしそんな華やかな時代も20世紀後半には衰退し、キング家はこの街を埋め立てることにした。なんてご都合主義な話だろう。

西部開拓時代のプルガ(引用元:A Short Story of a Long history – Town Of Pulga

その後プルガに大きな転機が訪れる。1960年代後半にアメリカ、いや世界中でカウンターカルチャーの大爆発が巻き起こり、プルガもその影響を大きく受けることとなった。自然豊かな保養所を求めたビートニク(※)やヒッピーがこの街の古風なスタイルを好み、無許可で住みつくようになる。当時は、Grateful Deadやジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)などの有名ミュージシャンなども訪れたと記されていた。

※1950年代のアメリカで流行した若者のサブカルチャーやその人々を指す言葉。

プルガの街についた時、かなり古い建物の割に家具や置物がやけにヒッピー的というか、カルチュアルな雰囲気を感じたが、こういう歴史を辿ってこの折衷的な様相に辿り着いたということだ。じつに面白い。そして、僕らが寝たベッドで、Grateful Deadのジェリー・ガルシアが寝てたかもしれないと思うと、なんだかそわそわしてきた。

オルタモントの悲劇(※)以降、カウンターカルチャーの衰退とともに、プルガも衰退していくのだが、その時、キング一家はこの街を新しい施設に売却することにした(奪った土地を売却するって、うーん、意味がわからない)。

※1969年12月にカリフォルニア州のオルタモントで開催された、The Rolling StonesやGrateful Deadらが出演した無料ロックコンサートで発生した死傷事件。「ヒッピー文化の終焉」を印象づける出来事となった。

1990年代、プルガという土地は、世界で新たな発展を見せたニューエイジカルチャー(※)に受け継がれ、瞑想センターや催眠療法の保養地としての役目を与えられることとなった。しかしそれも長くは続かなかったようだ。

※20世紀後半に生まれた、宗教的・疑似宗教的な自己意識運動または潮流のこと。

その後も所有者は変わり続け、2015年にはある企業が所有権を持ち、自然体験ツアーを売りにしたホステルとして利用され始めるが、そのInstagramのアカウントも2021年のコロナ期間中から更新が途絶えていた。おそらく経営難で撤退したのだと思われる。

そしてそのまま放置され、今に至るというわけだ。

プルガの街を歩いていると、手書きの地図を見つけた。この地図は多分、2015年以降に書かれたものだろう。

プルガの地図。ホステルとして発展させようという気概が伝わってくる

オフィスの寂れたデスクには、占星術の専門書やカルロス・カスタネダ(※)の著作が雑然と積まれている。『The Teachings of Don Juan』(ドン・ファンの教え)のソフトカバーのページをめくると、まさかの1969年の初版だった。これはきっとカウンターカルチャーの時代に持ち込まれたものだろう。でなければこんな無造作に置かれているはずはない。

※1960年代から1990年代にかけて活躍したペルー生まれのアメリカ人人類学者 / 作家。著書『ドン・ファンの教え』は、インディアンの呪術師のドンファンとのやり取りを記した本。

様々な歴史があるから、様々な時代のものが混在している。それらに触れながら、過ごされた時間や人々の営みを想像するのがとても楽しかった。

プルガのオフィス。デスクに積まれたカスタネダの著作たち

プルガでは人以外の友達もできた。1匹の犬と1匹の猫だ。犬の名前はラフィーという。猫のほうはわからなかった。

2匹とも人によく懐く。アンドリューが愛を持って育てていることがよくわかる。プルガの街を自由に探索しながら、各々が何にも制限されない時間を過ごしている。僕らも自然とそれに倣う。

プルガの番犬、ラフィーとプルガの猫。猫の名前はまだない

今夜はチーコでのショーがあるのだが、プルガからは1時間ほどで着いてしまうので、今日は15時過ぎまでプルガでゆったりと過ごすことにした。スマートフォンが使えないという制約が、時間をぐんと延ばしてくれる。

お気に入りの窓際で本を読みながら、時間を待つことにしよう。辞書も使えないが、意味を想像して、都合よく読み進めるのも悪くない。

プルガの美しい窓辺


※次回へ続く

連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

タイムライン

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

白い壁の前に立つ男性たち

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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Instagram | https://www.instagram.com/maya_ongaku/?hl=ja
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