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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

気合いを入れて臨んだ、ツアー最大キャパのロサンゼルス公演

2025.4.30

#MUSIC

今夜のショーまで少し時間があったので、僕ら3人はロサンゼルスのアーマンド・ハマー美術館の近くでおろしてもらった。マイキーはその間に、ハカンバに同行してた彼女と同居人のジーナを家まで送り届けるみたいだ。

スピリチュアルジャズの母、アリス・コルトレーンのアーカイブ展をハマー美術館で堪能したあと、市営バスに乗って今夜の会場であるTeragram Ballroom へと向かった。

いつもならサウンドチェックの時間ギリギリに到着するところ、今日は万全な準備をするために2時間近く前に到着した(アリス・コルトレーンの展示がかなりイマイチだったのもあるが)。

このTeragram Ballroomは、このツアー最大の収容数を誇るライブハウスで、音響の質や楽屋の広さなど含めて、アメリカツアーの中で最高の環境であった。英語でのPAとのコミュニケーションも、10回以上繰り返してきたため、かなり慣れてきた。外音のバランス、モニター環境などの細かい調整も滞りなく、テンポよく進んでいく。これはいいライブになりそうだ。

Teragram Ballroomでのサウンドチェック

サウンドチェックが終わると物販コーナーの準備を3人で始める。今日からは、欠品のない万全な状態でお客さんを迎え入れられる。売り上げが期待できるとわかっているので、レイアウトにも自然と力が入る。

そうこうしているうちに、開場の時間になった。他の会場よりも、お客さんの入りが早い気がする。ショーまで1時間もあるが、すぐに会場は半分以上埋まってしまった。物販コーナーも混み始める。

物販コーナーの様子

今回のような、ゲストバンドがいるショーだと、物販コーナーには3度の波が押し寄せる。まず1度目の波は、開場からゲストのショーまでの1時間の間だ。ここで僕らのグッズを買ってくれる人は、基本的に元々のファンが多い。

2度目の波は、ゲストバンド、つまり僕らのライブの直後だ。海外のお客さんは最初のバンドが終わると、いったんバースペースで談笑しに行ったり、ドリンクを調達することが多いため、このタイミングで、さっきまでステージにいたはずの僕らが物販コーナーにいると、声をかけに来てくれる。この波が最も大きな波になる場合が多いため、ライブが終わると僕らはすぐに物販コーナーに走るのだ(ステージの片付けに2人、物販に1人と分かれることもある)。そしてこの波は、メインバンドの演奏中にも緩やかに続く。ライブに疲れた人や、早めに帰る人がこのタイミングで現れる。

3度目の波は、メインバンドが終わった後、イベント終演後の帰宅ラッシュだ。ここもかなり大きな波になるので、閉館ギリギリまで物販には3人で立つ。サインや写真の列ができるのはこのタイミングが多い。

このようにイベント開催中は、ほとんど遊んだり休んだりする時間はない。だだ、この間ずっと、お客さんからの熱い言葉を聞き続けられるので、疲れることはない。物販コーナーは仕事の場であると同時に、安らぎの場でもあるのだ。

さて、そうこうしてるうちに、開場からの1時間はあっという間に経ってしまい、ついに僕たちの出番だ。アメリカツアーが始まって、ちょうど10回目のステージ。登場の際の歓声ももう慣れたものだ。

楽器を持ち、各々が音の波を一枚ずつ重ね合わせていく。僕らはいつも、そうやってステージ上で今日の演奏の調子を測るのだ。リハーサルじゃわからない事実がそこにある。重なっては溶けて消えていく周波数。互いの音を尊重しながら、交互に試していく実験。ステージの中の音は最高だった。素晴らしいライブになることを確信する。

ロザンゼルスには友人が多い。ステージから彼らの姿が見える。ひとりひとりの顔を簡単に視認できる。手は自動で動いている。複数の脳を持って、より複雑な操作をしているような感覚を覚える。何十分も演奏しているはずなのに、数分、いや下手したら数十秒単位に感じる。たぶん時間っていうのは、伸びたり縮んだり、進んだり戻ったりしているんだ。

ロサンゼルスでのライブの様子

最後の大歓声は、音が止まり切る前に起こってしまった。多分、曲の終わりを待ちきれなくて叫んでしまったのだろう。アメリカに来て良かった。もうここが最終地点のような気がしてしまっている。ありがとうロサンゼルス。

ライブが終わった後の様子

物販コーナーに走ると、大きな人だかりができていた。急いで対応する。エトランのライブが始まってもその波は退くことなく、閉場の時まで、ずっと滞留し続けたのだった。結果からいうと、この日の売り上げは4354ドル(約62万円)だった。これまでで最高の売り上げだ。

つまり、残る支出は4081ドル(約58万円)となり、たった1日の売り上げで、昨日まで残っていた支出の半分を消滅させてしまった。ロサンゼルス恐るべし。

終演後、元「Light In The Attic Records」で現在「Temporal Drift」のオーナーであるYousuke Kitazawa氏が現れた。彼は2019年に発売され、グラミーを受賞した日本のアンビエント音楽をまとめたコンピレーション『Kankyō Ongaku』のキュレーションを務めた立役者である。今は自身のレーベルで「裸のラリーズ」の復刻や、親交の深いミュージシャンのリリースを手助けしている。Yousukeさんは「本当に感動した」と伝えてくださった。彼の言葉はいつも大きな力を与えてくれる。本当にありがとう(ちなみに上のライブ写真を撮ってくれたのも彼である)。

ファンさながらのYousuke Kitazawa氏

休む間もなく物販コーナーで働いていると、会えるはずのない人物が現れた。

「アンドリュー!」

僕は叫びながら抱きしめてしまった。そこに現れたのは、ゴーストタウン・プルガの支配人であるアンドリューだった。白いセットアップをしつらえた彼をみると、涙が滲んでくるのはなぜだろう。もう会えないと思っていたからだろうか。ツアー生活が目まぐるしく過ぎて、別れてからまだ5日しか経っていないのに、ずっと前に居なくなってしまった人のように感じてしまう。プルガは800kmも離れているのだ。彼の優しさを思うと、心に深い熱が帯びてくる。その心意気に涙してしまったのかもしれない。

ロサンゼルス公演に現れたアンドリュー

他にもまだまだ色々な人に出会い、色々なことを話したが、話すと長くなるのでこの辺で割愛させていただこうと思う。

素晴らしい一日だった。深い愛の断想に耽りながらマイキーの家で僕は眠りについた。


※次回へ続く

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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