4月9日(水)
Sub Popのニックの家では、初めてよく眠れた。不眠は、ジェットラグだけでなく、ツアーへの漠然とした不安から起きていたのかもしれない。これからはよく眠れるといいのだが。
朝日がニックの家の庭と、住宅街の舗装された道路や木々に均等に落ちている。美しい、新しい朝だった。
昨日のシアトルでのショーで、マーチ(グッズ)が予想外に売れすぎてしまった。このままいくと道半ば程でTシャツやレコードが売り切れてしまい、後半には何も残らない状況になりそうだったので、僕らは急遽レコードの在庫の回収(ワシントン州アナコルテスにあるレコードストアに倉庫がある)と、Tシャツの追加生産を決めた。マイキーの知り合いがLAでプリントショップをやっているとのことで、そこで追加分100枚を頼むことにした。
今日はシアトルから車で2時間ほど北上し、ベリンハムでのショーに向かう予定だ。マイキーに行程を尋ねると、まずシアトルのレコードストアに寄り、その周辺でランチをする予定とのことだった。僕が希望しなくても、行程の中にレコードディグが含まれているのはとても助かる。
レコードストアまでは車で数分だった。
Hex Education Recordsは新品も中古も置いた、自身のレーベルも抱える街の小さなレコードストアであった。棚の最低価格は3ドルとかなり安く、サイズ的にもレコードを掘りやすい、僕の好きなタイプのストアだ。
世にある他の趣味事と同様に、レコード趣味の中にも色々あるが、僕にとってレコードディグとはシンプルに新しい音を探す行為であり、基本的には安いものが好きだ。オリジナル盤などのレアリティが高いものを高額を支払って集めるような、行き過ぎたレコード趣味には、少し違和感を覚える。そもそも高いものというのは、もうすでに誰かに見出され、価値づけが済まされたものであり、それにはあまり魅力を感じられない。価値づけがなされていない、安くても素晴らしいレコードを見つけることが、僕にとってのこの趣味における、唯一の至福であった。
店主のおじさん(申し訳ないが名前は忘れてしまった)は僕らを見るなり、「昨日見たよ!」と声をかけてくれた。大変ありがたい。4ドルのKorla Panditのレコードをレジに持っていくと、3ドルにまけてくれ、さらに彼自身が運営するレーベルのレコードをプレゼントしてくれた。僕以外のみんなも1枚ずつレコードを貰っていた。なんで優しいのだろう。ここにはまたいつか訪れよう。
ホクホクでレコードストアを出ると、ちょうど正午だった。マイキーが「歩けるところにハンバーガーショップがあるから行こう」と、僕らを率いて歩き出した。
「Dick’s Drive in」で食べたハンバーガーが、僕らのアメリカ最初のハンバーガーになったわけだが、これはこれは美味かった。7ドルでハンバーガーにさらにフライがついてくる。日本では普通だが、現在のアメリカでは破格である。あと、これは本当に思うのだが、アメリカの店の店員たちはどうしてこんなに陽気なのだろうか。
確かにこれはチップをあげたくなってしまう。
正直、そんな余裕はないのだが。

今日のライブハウスはベリンハムのThe shakedown。収容人数は150人ほどの小箱である。昨日のNeumosがツアー最大規模の600人収容だったので、ステージもフロアもサイズがかなり小さくなった。このツアーで最も小さい箱だと思う。グッズも昨日ほどは売れないだろう。1日目と2日目で最大と最小を知ることができると、売り上げの大体平均を取ることができるから、ちょうどいい。
チケットはソールドアウトしていたので、お客さんはパンパン。シアトルを経験し、もう盛り上がるとわかっていたので、何事もなくライブを終えることができた。
グッズの売り上げは1350ドル(約19万円)だった。最も小さい会場で、元々のノルマを超えることができてよかった。このまま順調にいけばツアーの途中で黒字にできそうだ。
グッズコーナーにきたお客さんが「君たちの絵を描きにきたんだ」と絵を見せてくれた。ステージから、彼のことは見えていた。何を真剣に描いているのかと気になっていたが、まさかこんな素敵な絵だとは! とても嬉しかった。本当にありがとう。

エトランのショーが終わると会場を片付け、すぐにホテルに戻った。明日は国境を越え、カナダのバンクーバー空港にキタさんを送り(キタさんとはここでさよならだ。たった2、3日の同行のために来てくれたのである)、そのままフェリーに乗って3つ目の会場であるヴィクトリアへと向かう。この夜はほとんど一睡もできなかった。もともと自分の家以外ではあまり快適に寝れないタイプだから覚悟はしていたが、こうも連続して寝れない夜が続くと、正直かなりきつい。
4月10日(木)
国境を越えたり、キタさんを空港に送ったりと、やることが多かったので僕らは早めにホテルを出発することにした。10時ごろにバンクーバー空港につき、ここでキタさんとはお別れだ。本当に感謝しかない。
次に向かうヴィクトリアは、カナダはバンクーバー島の南部に位置する街で、バンクーバーから車ごとフェリーに乗り込み、1時間半ほどで到着する。僕らがフェリーに乗った時は雨と風が強く、景色は素晴らしいものの、ほとんどデッキにいることはできなかったので、本を読んで過ごすことにした。写真を撮ったり、風を受けたりしたかったのだが。まあ、帰りの便に期待しよう。
無事にフェリーがバンクーバー島につくと、今日の会場Wicket Hallはそこから数分というところであった。ライブハウスというより500人ほど入る大きなレストランという感じで、スタッフたちはみんな「今日は500人がくるんだ!」とテンションが上がっていた。多分かなり珍しい事なのだろう。
大きな会場のわりに、ステージは小さめで天井が低い。ステージ上の音がぼやついて少し演奏がしにくいが、こういう事にいちいちナーバスになっていたら、毎日のライブを安定した心でこなせない。海外ツアーで大量の日程をこなすそういった柔軟さも大事だと思われる。
さて、ショーが大盛況で終わり、グッズ販売をしていると問題発生。iPhoneにカードをかざして決済ができるサービス「Square」のアプリが、国境を越えた影響で全く使えない。今日と明日のカナダ公演は現金のみの決済になりそうだ。これは少し痛い。
しかしグッズも申し分ないほど売れ、結局売り上げはUSドルにして1900ドル(約27万円)までいったのだった。カナダは使うお金も物価も違うので、値付けや決済に苦労が多かったが、無事一日1200ドル(約17万円)のボーダーを超えられてよかった。
残る支出は11100ドル(約158万円)だ。
しかも、併設のレストランでの夕飯も付いていて、そこで食べたバターチキンカレーが絶品だった。完全な主観だが、カレーは基本どこの国でもうまい気がする。
明日はもう1度フェリーに乗り、バンクーバーに向かう。このフェリーは1度乗ると115カナダドルもするので計230ドル(約3万2000円)だ。ちょっと高い。しかし次の街に行くには乗るしかない。我慢しよう。
※次回へ続く
maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party
maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。
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