航空券が自腹という事実は前述のとおりだが、恐ろしいことに、言うなれば全てが自腹なのである。2023年のヨーロッパツアーを敢行するのにかかった経費は、日本円にして大体180万円くらい。これが全てバンドの負担となる。ああ怖い。
その内訳を大まかに説明すると、
・航空券代 45万円
・バンレンタルと燃料代 50万円
・ツアーマネージャー 35万円
・機材レンタル 6万円
・グッズ制作代 25万
・その他諸々(オフの日の宿代など) 20万
という感じになる。
この支出をショーのギャラや物販を売ることで黒字にすることが僕たちの主な目的である。これが海外ツアーの現実だ。長くなってしまったが、わかっていただけただろうか。
1話目、僕らがこれから始める、満を持してのアメリカツアーが、海外ツアーの鬼門とされているのには訳があると書いたが、その訳をこれから説明しよう。
僕がここまで説明していた海外ツアーの現実は、基本的にはヨーロッパツアーに適応される現実であり、アメリカでは全く違う現実が広がっているのだ。
まず挙げられる大きな違いとして、アメリカのビザ取得にかかる費用が高すぎることがある。海外で演奏をし、外貨を稼ぐ行為には基本的にビザが必要となるが、ヨーロッパと比べてアメリカのビザ取得は桁違いに高額で、さらに手続きも圧倒的に面倒である。様々な人の推薦や実績がないと、そもそもアメリカビザを取ることはできない。
今回のアメリカツアーでかかったビザ代は3人分で大体100万円。これだけでヨーロッパツアー全体の支出の半分以上だ。もう思い出したくない。
さらにアメリカでは、ショーの日であっても、食事と宿が出ない。これはバンドにとってとてつもなく大きな負担となる。ヨーロッパではライブをしておけばとりあえず生きられるような状況だったが、アメリカでは普通に餓死する。なので、必ず毎日ホテルをとり、食事も自分たちで買うなりして用意しなくてはならない。長期滞在になると、これは金銭的にかなり痛手になる。さらに現在、円安とアメリカ本土での物価高騰の影響で、さまざまなコストも上がっている。
そんなわけで、今回のアメリカツアーで僕らが払ったトータルコストはというと、なんと約370万円であった。
半端じゃない。ちょっと良い車が買えてしまう。
つまり僕らのツアーは、370万円の赤字から始まり、試行錯誤しながらギャラとグッズ販売でどうにかして支出を相殺、あわよくば黒字にできないかというトンデモ企画なのである。
実に途方もない話に聞こえるだろうが、ショーのギャランティはツアーを組んだ段階で決まっていて、それは全公演合わせて約130万円ほどになる。この金額はもうすでに回収できている(ライブを飛ばさない限りは)と仮定すると、残りは210万円。それをグッズ販売のみで回収しなくてはならない。ショーは全部で14本、単純計算で1日15万円の売り上げが必須となる。なんだかいけそうな気がしてきた。
ずいぶん長くなったが、全て読んでくれた猛者たちは、海外ツアーの現状についてかなり詳しくなったのではないだろうか。
この連載はアメリカツアー中、できるだけリアルタイムで、できるだけ頻繁に更新することを心がける。内容はというと、ツアー中は凄まじい頻度で、いろんな出来事が多発しまくるので、その珍道中と、僕の心象的なものも少し織り交ぜていけたらと思う。
さらに、ツアーの売り上げも日々更新し、読者の皆様と僕らの奮闘を共に楽しんでくれるようにするのも面白いかもしれない。SNSのコメントなどでの応援メッセージはとても励みになるので、ぜひ僕たちが見られるように呟いていただきたい。
ここまで、辛い現実ばかり書いてしまった。これを読んで、僕たちの活動に、効率的でないと、疑問を抱く人も中にはいるかもしれない。しかし、最後にこれだけは言わせていただきたい。ツアーというのは本当に本当に楽しいのだ。友達と作った渾身の音楽を、世界の人々に届けながらお金を稼ぐ。さまざまな困難、絶対に起こるハプニング、それらをみんなで知恵や力を合わせて乗り越える。これらは他の何にも変え難い、特別な体験となる。だからどんなに悪条件下でも、無理矢理にでも敢行することを選んでしまうのだ。
僕らが繰り広げるこの特別な体験を、ぜひたくさんの人にも楽しんでほしい。海外ツアーの面白さを、他のバンドやこれから音楽を始めるような方々に知ってもらいたい。そういった想いから、この連載は生まれることになった。
前書きがずいぶん長くなってしまったが、まあ本編は日記なので、もう少し短く、読みやすくなると思われる。同時に僕たちのSNSでもツアーの様子を更新していくのでそちらもチェックしてほしい。
このような連載形態は初めてであり、普段日記を書くこともない僕だが、できるだけ沢山の読者の方々に楽しんでもらえるよう、精一杯努力するつもりだ。そんな未熟さも楽しんでいただけたらと思う。
※次回へ続く
>連載もくじはこちらから
maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party
maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。
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