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なぜ映画『8番出口』では“ボレロ”が? 中田ヤスタカ&網守将平の劇伴とともに読み解く

2025.9.24

#MOVIE

“ボレロ”は極端にミニマルな舞台設定、主人公の心情の変化とリンクする

本作では、ただの地下通路をあそこまで恐怖の対象として切り取ったカメラワークや編集も印象的です。

そうしたミニマルな空間に押し込められたからこそ、観客は足音などの些細な物音、あるいは自分の息遣いなど、認知しない領域の音を意識せざるを得なくなったかもしれません。ちなみに、ある登場人物のコツコツという足音が唐突にピチャン、ピチャンとスプリングリバーブをかけられたように処理されているシーンなどもあり、制作陣の遊び心を感じました。

本作においてそうした自然音、環境音は、映画の生々しさを伝えていましたし、一つひとつの些細な音がリアリティーや緊迫感を高めていたようにも思います。限られた情報、シチュエーションのなかで、ストーリーを導いていたものはある意味、音楽であり、音であったのかもしれません。

無気力で失意のどん底にいた主人公が、物語が展開していくに従って、生命感を獲得してく——そうした映画としての主題や、人はこんなにも変わることができるのだという希望に満ちたストーリー性を、音楽もまた物語っていたと思います。

『8番出口』ポスタービジュアル ©2025 映画「8番出口」製作委員会(映画サイトを開く

そして、こうした作品の構造を支えているのが“ボレロ”という楽曲なのです。

“ボレロ”は単に本作のループ構造と重なるだけでなく、映画の全体においても興味深い機能を果たしていました。地下通路という空間でストーリーを経るにつれ、やつれきって極小の生命感だった主人公が、生きる意味のようなものを獲得し、極大な生命感のなかカタルシスを迎える——二宮和也さん演じる主人公の心情の変化、起伏を反映するように、“ボレロ”という音楽そのものの仕組み、大義が機能していたというわけです。

またサウンドトラックの最後を飾る“Bolero”(網守将平)は、電車の走行音が徐々に“ボレロ”のスネアのリズムに移ろっていく、実験的でエレクトロアコースティックな作風。サウンドトラックから見ても、やはり“ボレロ”という楽曲はこの映画の象徴として存在しているのかもしれません。

映画『8番出口』サウンドトラック収録曲(各ストリーミングサービスで聴く

『8番出口』

全国東宝系にて公開中

監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗、川村元気
音楽:Yasutaka Nakata (CAPSULE)、網守将平
脚本協力:二宮和也
原作:KOTAKE CREATE「8番出口」
配給:東宝

出演:
二宮和也
河内大和
浅沼成
花瀬琴音
小松菜奈

https://exit8-movie.toho.co.jp

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