INDEX
現代音楽家、映画音楽家としてグリーンウッドは歴史に名を残すかもしれない
改めて言うまでもないですが、ジョニー・グリーンウッドは前衛的なバンドサウンドで世界でも稀に見る成功を収めたRadioheadという音楽集団の一員です。しかしその才能はむしろ、「現代音楽」の可能性を追求する音楽家、と認識され得るべきなのではないかと思うのです。
しかもそのあり方は、ただクラシック音楽のレガシーを引き継ぐだけではありません。
現代音楽作品の”Horror Vacui”(2019)においては、ディレイやリバーブといった電子的な処理を弦楽オーケストラに見立てることで新たな作曲手法として確立しています。『ファントム・スレッド』(2017年)のテーマ曲では、弦楽による対位法的な人力ディレイを試みています。“Popcorn Superhet Receiver”(2005年)においては、ビオラのサンプルをPro Tools上でエディットして作曲されたという。
つまりDAW(デジタルオーディオワークステーション)以降の世代であり、ポストプロダクション的な手法を現代音楽に落とし込む作曲手法は、ジョニー・グリーンウッドのキャリアを考えるならばごく自然に到達した技法でもあり、新たな音楽を切り拓く前衛そのものです。そして何よりも美しい音楽を奏でる音楽家であります。
そうしたこれまでのキャリアの上で培われてきた様々な音楽手法を用い、バリエーションに富んだ作曲スタイルで編み上げた『ワン・バトル・アフター・アナザー』のサウンドトラックは、ポール・トーマス・アンダーソン監督と共同したこれまでの作品の集大成です。
後期ロマン派的なロマンティックな旋律や、バロック的な対位法を用いつつ、ペンデレツキやリゲティを思わせる弦の不協和、金属的ドローンで、アメリカ開拓時代の「狂気」と孤独を音で描いた傑作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、弦・木管・打楽器の異様なアンサンブル構成で、静寂の中に潜む緊張と宗教的陶酔感を表現した『ザ・マスター』(2012年)、美しい室内楽風ピアノと弦、ディーリアスやラヴェルにも通じる、極端に繊細で官能的な響きを持った『ファントム・スレッド』……。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』から始まったポール・トーマス・アンダーソンとの関係性は、ジョニー・グリーンウッドという音楽家の才能を加速させたといってよいと思います。
両者の信頼関係がなければ、ここまで密接に映画と音楽が相互に関わり合いながら制作をすることは困難だったことでしょう。そして何より、ジョニー・グリーンウッドのクラシック音楽への敬意と愛がなければ、これほどの達成を成し得なかった、そう私は思うのです。
ジョニー・グリーンウッドの音楽は、空間を拡張し、あたかもその場に存在しているかのような映像との距離感、登場人物の感情を浮彫にし、時間を支配している。だが決して単調なものではなく非常に有機的であり、決して圧倒的な暴力性もない。静寂の中にあるダイナミクス、常に内向的な美しさを持った音楽なのです。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』

公開:10月3日(金)全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督/脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:マイケル・バウマン、ポール・トーマス・アンダーソン
衣装:コリーン・アトウッド
音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ
コピーライト:©️2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:obaa-movie.jp
ジョニー・グリーンウッド 『One Battle After Another (Original Motion Picture Soundtrack)』(Nonesuch Records)

2025年11月14日発売予定(輸入盤CD、LP)
1.One Battle After Another
2.The French 75
3.Baktan Cross
4.Baby Charlene
5.Perfidia Beverly Hills
6.Mean Alley
7.I Need the Greeting Code
8.Ocean Waves
9.Guitar for Willa
10.Battle After Battle
11.Sisters of the Brave Beaver
12.Like Tom Fkn Cruise
13.Operation Boot Heel
14.Avanti Q
15.River of Hills
16.Greeting Code Reprise
17.Trust Device
18.Trio for Willa