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『ワン・バトル・アフター・アナザー』で音楽が果たした役割、そして機能
そこでポイントとなるのが「音の密度」です。
それは例えば、パーカッションは緊張感や躍動感を、ストリングスは絶望、不安、緊迫した状況は変拍子・不定拍子的なパーカッションや微分音クラスター的なストリングスなどで表現する、といったサウンド単位でも本作の音楽に表出していますが、いわゆるオーソドックスでメロディアスな曲調の中で、さらに細分化されたパラメーターとして「音の密度」があるわけです。
その根底にあるのは、「音の粒子の密度によって、キャラクターの『心理』および緊迫した『状況』を表現する」という発想なのだと思います。

つまり登場人物の心理的要素を感情的で、直接的なメロディーのような形式だけで表現するのではなく、グリーンウッドはトーンクラスターなどの現代音楽の技法を通じて、あくまでテクスチャーや、音の粒子の集合体という音響的なサウンドで心理描写を描いている、と。音響密度、あるいは静寂と爆発の対比は、キャラクターの内面的心情を克明に描出しています。
緊張、爆発、安らぎ、不安、逃避、葛藤、浄化……映画におけるキャ
ラクターたちの感情が「音の密度」と対応し、音楽が感情の温度感や時間の流れをコントロール、もしくは時間の概念として機能しているのではないか、と私は感じるのです。

感傷的なメロディーや音響的な圧力だけで観客を制圧するのではなく、より深い部分のパラメーターでもある音の密度や音の対比構造によって、スクリーン上のキャラクターの心理描写と観客の感情を無意識下で結びつける。このサウンドトラックは、そうした映画における重要な役割を音楽が果たしているのではないか、というのが私の見解です。
