映画『侍タイムスリッパー』の地上波初放送が決定した。7月18日(金)21時から日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送される。
制作費は通常の邦画の1/10以下と低予算、小規模のスタッフで制作され、上映は2024年に東京・池袋シネマ・ロサのたった1館から始まった同作。観客の口コミで話題となり上映館は全国380館に拡大し、興行収入は10億円を超えるなど大ヒットを記録。第48回日本アカデミー賞ではインディーズ映画初の最優秀作品賞にも輝いた。
物語は、幕末の侍が雷に打たれ、なぜか現代の時代劇撮影所にタイムスリップすることから始まる。突然自らに降りかかった理解不能な状況に戸惑いながらも、時代劇の「斬られ役」として第二の人生に奮闘する姿を描く。時代劇コメディー作品であると同時に人間ドラマであり、手に汗握るチャンバラ活劇でもある。
監督は、ビデオ撮影業のかたわら普段は農業を営む安田淳一。自ら映画の製作、配給を事業とする未来映画社を設立し、47歳の時に撮影した自主映画『拳銃と目玉焼』(2014)で長編映画デビューを果たしたという遅咲きの映画監督。自主制作ゆえに監督が自ら資金調達に奔走するも「自主制作映画で時代劇を撮る」と言う無謀さと、撮影当時はコロナ禍の真最中という時期もあり資金集めが難航。諦めかけた監督に、「脚本がオモロいから、なんとかしてやりたい」と救いの手を差し伸べたのが「時代劇の聖地」東映京都撮影所(通称:太秦撮影所)だった。制作期間は半年に及んだ末、なんとか映画は完成したが、その時の監督の銀行口座に残っていたのは、わずか7,000円。「地獄を見た」と語る監督は、映画が当たらなければ、農業も続けられないという崖っぷちに追い込まれていたという。
主人公の会津藩士・高坂新左衛門は、ハリウッド映画『ラスト サムライ』(原題:The Last Samurai)にも出演した「伝説の斬られ役」故・福本清三からイメージを得て、彼を取り巻く人情あふれる登場人物たちや本格的な殺陣シーンと、時代劇への愛が存分に込められている。主人公を演じるのは1998年に日中合作映画『戦場に咲く花』でデビューし、『侍タイムスリッパー』が初めての主演となった山口馬木也。その好演により第67回ブルーリボン賞で主演男優賞、第48回日本アカデミー賞でも優秀主演男優賞を獲得した。
高坂の敵役・風見恭一郎を演じるのは、1982年に『OH!タカラヅカ』で映画デビュー、以降、現代劇 / 時代劇共に数多くの映画やドラマで活躍する冨家ノリマサ。ヒロインの助監督・優子を演じるのは、安田監督の『拳銃と目玉焼』(2014)でデビューした俳優・沙倉ゆうの。予算もスタッフも足りない同作では、実際に撮影現場での助監督の役目もこなし、スタッフ兼役者としての参加となっている。
NiEW編集部からのひとこと
『侍タイムスリッパー』のみならず、ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』(2024・藤野知明監督)が初週4館のみの上映から全国100館以上へと広がるなど、小規模上映から始まった作品が話題となった2024年。鈴木竜也監督が一人で描き上げ、音楽 / 編集など9役を兼任して制作された『無名の人生』(2025)の公開、その拡大も記憶に新しく、引き続き気になる作品をチェックしていきたいところ!(編集部:柳瀬)
『侍タイムスリッパー』
放送日時:2025年7月18日(金)21:00~23:29
※放送枠35分拡大
監督・脚本・撮影・照明・編集 他:安田淳一
殺陣:清家一斗(東映剣会)
床山:川田政史(東和美粧)
時代劇衣装:古賀博隆、片山郁江(東映京都撮影所衣装部)
照明:土居欣也、はのひろし
出演
高坂新左衛門:山口馬木也、風見恭一郎:冨家ノリマサ、山本優子:沙倉ゆうの
殺陣師・関本:峰 蘭太郎、住職の妻節子:紅 萬子、西経寺住職:福田善晴
撮影所所長・井上:井上 肇、錦京太郎:田村ツトム、斬られ役俳優・安藤:安藤彰則
山形彦九郎:庄野﨑謙
【ストーリー】
時は幕末、京の夜。
会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。
名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。
やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。