『第37回東京国際映画祭』のクロージングセレモニーが、11月6日(水)に東京・有楽町のTOHOシネマズ日比谷で開催。コンペティション部門の各賞も発表となった。
最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞を獲得したのは、筒井康隆の同名小説を吉田大八が監督を務めて映画化した『敵』となった。同映画祭で日本映画がグランプリを受賞したのは、2005年の根岸吉太郎監督作『雪に願うこと』以来19年ぶり。さらに、『敵』は、元大学教授・渡辺儀助を演じて主演を務めた長塚京三が、日本人俳優としては19年ぶり、かつ同映画祭史上最高齢の79歳で最優秀男優賞を受賞。吉田が最優秀監督賞を受賞し、三冠となった。
最優秀男優賞の発表には、コンペティション部門の審査委員長を務めた香港の俳優トニー・レオンがプレゼンターとして登壇。「スクリーンに登場したその瞬間から、その深み、迫真性で私たちを魅了しました」と講評を述べ、壇上に登場した長塚にトロフィーを手渡した。長塚は、2日前の舞台挨拶から間もない発表だったことに触れ、「あまり急なことで、びっくりしてまごまごしています」とコメント。その上で「『敵』という映画に出させていただいて、これは歳をとってそしてひとりぼっちで助けもなく敵にとりこめられてしまうという話なんですけれども、結構味方もいるんじゃないかと気を強くした次第です。もうぼつぼつ引退かなと思っていた矢先だったので、うちの奥さんは大変がっかりするでしょうけど、もうちょっと、ここの世界でやってみようかなという気にもなりました」と、作品と俳優人生50周年を迎えた自身のキャリアに触れながら受賞の喜びを語った。「東京国際映画祭、ありがとう。味方でいてくれた皆さん、どうもありがとう」と、観客に感謝を述べた。
続いて発表された最優秀監督賞を受賞した吉田。「この小さな映画を誕生から旅立ちまで見送ってくれている全てのスタッフ、俳優の皆さんに心から感謝します。まだ自分がいい監督かということに自信は持てませんが、間違い無く皆さんのおかげでこの映画はいい映画になったと思っています」と、感謝と共に作品への自信を滲ませた。
最後となった東京グランプリ/東京都知事賞の発表では、再びトニー・レオンが壇上に登場。「本当にこの素晴らしい映画、心を打ちました。知性、ユーモアのセンス、人生の様々な疑問に我々は皆苦戦するのですが、本当に素晴らしいタッチで、シネマを感情的な形のものとして、全て完璧に仕上げたと思っております。エレガントで、新鮮な映画表現」と『敵』を絶賛した。長塚と吉田が再び登壇し、吉田は「味方も意外と多いと気づくことができてよかったです。僕も長塚さんも皆さんの敵であり、同時に味方でありたいと思っている」と『敵』という作品名を用いながら話し、会場に向けて改めて感謝を伝えた。
クロージングセレモニーの最後には、トニー・レオンが「全員一致で大好きな映画を見つけることができた」と話し、同映画祭を締めくくった。
また、セレモニー後には記者会見も開催され、吉田と長塚が質問に回答した。制作の経緯についての質問が出ると、吉田は「原作小説を30代のころに読んでいたが、読み直して30年前とは違う感覚を覚え、何かの形で吐き出せないかということで映画をつくった」と明かし、「撮影の中では苦労することはあったが、ものすごく楽しい映画作りの経験でした。またこのような華々しい機会にも恵まれ、やはり映画づくりってこういうことがあるから楽しいなと改めて思いました」と喜びを噛み締めた。
俳優人生50周年での今回の受賞について聞かれた長塚。「(今回の受賞に関して)全然そういう予測はつきませんでした。想像もつきませんでした」と予想外の受賞であったことを明かし、「(撮影では)ロケ地が遠かったので、朝早くから行って、帰るころには遅くなっている。毎日一日の撮影を終えることに精一杯。妻のサポートがあってこそです」と、撮影を振り返った。
さらに、本作がモノクロ映画であることへの質問について吉田は「主人公が古い日本家屋に住んでいるので古い日本家屋をたくさん見ているうちにいつのまにかモノクロに影響されたようです。前半のストイックな主人公の生活を描くときに、モノクロの方がより抑制的なので良いと思いました。結果、モノクロにしたことで、カラーを観ているときよりもより注意深くみてくれる、つまり没入感が増す、ことに繋がりました」と明かした。
最後に、2014年に監督を務めた『紙の月』で観客賞と主演の宮沢りえが最優秀女優賞を獲ったことから、東京国際映画祭で賞を獲るコツを聞かれた吉田。コツはないと答えつつ、「ボクは映画を何で観に行くかというと『俳優』を観に行く。なので、僕の映画は『俳優』を観に来て欲しい。ですから俳優賞をいただけることは、ひとつ自分の想いが達成したという気持ちがすごく強い」と、自身の思いを語った。
なお、『第37回東京国際映画祭』コンペティション部門では、主演女優賞を『トラフィック』のアナマリア・ヴァルトロメイ、審査員特別賞を『アディオス・アミーゴ』、最優秀芸術貢献賞を『わが友アンドレ』、観客賞を『小さな私』が受賞した。
第37回東京国際映画祭 各賞受賞作品・受賞者
コンペティション部門
東京グランプリ/東京都知事賞 『敵』(日本)
審査員特別賞 『アディオス・アミーゴ』(コロンビア)
最優秀監督賞 吉田大八監督(『敵』、日本)
最優秀女優賞 アナマリア・ヴァルトロメイ(『トラフィック』、ルーマニア/ベルギー/オランダ)
最優秀男優賞 長塚京三(『敵』、日本)
最優秀芸術貢献賞 『わが友アンドレ』(中国)
観客賞 『小さな私』(中国)
アジアの未来 作品賞 『昼のアポロン 夜のアテネ』(トルコ)
東京国際映画祭 エシカル・フィルム賞 『ダホメ』(ベナン/セネガル/フランス)
黒澤明賞 三宅唱、フー・ティエンユー
特別功労賞 タル・ベーラ
『敵』
<クレジット>
長塚京三
瀧内公美 河合優実 黒沢あすか
中島歩 カトウシンスケ 髙畑遊 二瓶鮫一
髙橋洋 唯野未歩子 戸田昌宏 松永大輔
松尾諭 松尾貴史
脚本・監督:吉田大八 原作:筒井康隆『敵』(新潮文庫刊)
企画・プロデュース:小澤祐治 プロデューサー:江守徹 撮影:四宮秀俊 照明:秋山恵二郎
美術:富田麻友美 装飾:羽場しおり 録音:伊豆田廉明 編集:曽根俊一
サウンドデザイン:浅梨なおこ
衣裳:宮本茉莉 ヘアメイク:酒井夢月 フードスタイリスト:飯島奈美
助監督:松尾崇 キャスティング:田端利江
アクション:小原剛 ガンエフェクト:納富貴久男 ロケーションコーディネーター:鈴木和晶
音楽:千葉広樹 音楽プロデューサー:濱野睦美 VFXスーパーバイザー:白石哲也
制作プロデューサー:石塚正悟 アシスタントプロデューサー:坂田航
企画・製作:ギークピクチュアズ 制作プロダクション:ギークサイト
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
製作:「敵」製作委員会
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA
<物語>
渡辺儀助、77歳。
大学教授の職を辞して10年―妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になったが、気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。だがそんなある日、書斎のiMacの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。
公式サイト:https://happinet-phantom.com/teki 公式X:https://x.com/teki_movie
2025年1月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開