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『高畑勲展』レポート アニメーションに捧げた生涯の軌跡を貴重資料で辿る

2025.7.28

#ART

あの人の姿も……現場の雰囲気が伝わってくる貴重な資料

会場風景より。カボチャの横の、スープを飲む少年に注目 / 『太陽の王子 ホルスの大冒険』 ©東映

もちろん高畑自身のノートなども見ることができる。スープを飲む少年(ホルス)のイラストの下には「ホルスは常に食べることが好きだ」と書かれているのだが、よく見ると「ホルス」の部分に取消線が引かれて「ハヤオは常に食べることが好きだ」となっている。これってもしかして、最年少の原画スタッフとして携わっていたという宮崎駿監督のこと?

会場風景 / 『太陽の王子 ホルスの大冒険』 ©東映

上の写真に写っているのは、作画監督の大塚康生がサイズ比較のために描いたキャクターの集合イラスト。しれっと、キャラクターたちに混ざって高畑勲、宮崎駿、大塚自身が描き込まれているので必見である。コマッタナーと座り込む宮崎駿や、睡眠時間を心配されている高畑勲、そこに「でもあたしこの人好きだわ」と声をかける女性キャラ(多分ヒルダ)など、当時の現場の雰囲気が伝わってくる真の意味での「集合イラスト」である。

会場風景 / 『太陽の王子 ホルスの大冒険』 ©東映

テンションシートと呼ばれる、ストーリーの全体イメージや緊張感、温度感をグラフ / 色で表した資料も。さらに人物ごとの相関図、バックボーン……途方もない時間と労力と知性がここに使われていることがわかる。このあたりは作品を見たことがあるかどうかで鑑賞の深まり具合が変わってくるので、是非とも、是非とも『太陽の王子 ホルスの大冒険』は履修した上で訪れることをおすすめする(一部動画配信サービスで見られます!)。

会場風景より。ブランコに乗って登場するヒルダ / 『太陽の王子 ホルスの大冒険』 ©東映

同作のヒロインでありもうひとりの主人公・ヒルダ。本展でも愛されており、特別にヒルダコーナーをもらっている。キャラクターデザインの別案(どれも可愛い)や、作画担当の森康二による水彩イラスト、声優キャスティング時の資料など、見どころが多い。二律背反の感情を抱いた複雑な表情が印象的なヒルダだが、ミステリアスかつ生々しいその表情は、悲しみの目に笑いの口元を組み合わせた「般若的表現」で構成されているのだと解説パネルで読んで、深く納得した。

また、企画段階から3年半、当初の予算のおよそ2倍の制作費を要した『太陽の王子 ホルスの大冒険』は、スケジュール遅延を理由に突然の制作中止が言い渡されたり、制作スタッフと会社側との度重なる闘争の末に完成した作品だったらしい。このコーナーの隅にひっそりと展示されている東映動画との交渉資料を見ると、制作中止か続行か、高畑と会社の間で胃が痛くなるようなギリギリのやり取りが展開されていたのがわかる。

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