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びっしりと整列するおもちゃと、額装された宝くじ

床に並べられた小さなおもちゃやゲームのパーツは『閉ざされた世界』という作品。上から見ると、一つひとつが本当にまっすぐなラインを作っていて驚く。途方もない集中力の成果であり、終わりなく行き場のない一大事業である。鑑賞ガイドによれば「これは、作家の5さいの息子バクスターさんが、自閉スペクトラム症の特ちょうとしてとても強い関心を持って、熱心に取り組んでいることのひとつです」とのこと。
ライアン・ガンダーが自宅を車椅子で移動する際、どうしても子どもが美しく並べたモノの列を壊さざるを得ない場面が多いという。この『閉ざされた世界』は、その申し訳なさを背景に生まれた作品なのだそうだ。確かに、アート作品として範囲を定めて閉じてしまえば、その世界は侵されることなく不安に脅かされることもないだろう。
背後の壁に掛かっている『時を巻き戻して』も面白い。一見するとよく分からないが、額装されているのはスクラッチくじだ。これはゴッホが弟のテオから送られていた仕送りと同額のぶんだけ作家が宝くじを購入し、それを額に入れて飾ったもので、空白になっているのは当選して換金したくじのスペースらしい(結構当たっている)。テオの送った絵の具代はゴッホの絵画になり、本作ではそれと同額の金が宝くじに化けた。そしていくつかが「当たって」、次の価値を生んだ(ちなみにくじの当選金は若手アーティスト支援のために使われたらしい)。芸術家に仕送りをして支えるのって、間接的に宝くじを買うようなものなのかもしれない、と妙に納得してしまう。
ちなみに、ポーラ美術館では会期を同じくして『ゴッホ・インパクト—生成する情熱』展が開催されており、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホがいかに「大当たり」だったのかを実感することができる。