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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

ポーラ美術館ライアン・ガンダー展レポート 箱根で世界への「問い」をムニムニする

2025.6.30

#ART

しゃべるカエルとの対面

『君が私を完成させる、あるいは私には君に見えないものが見える(カエルの物語)』(2025年)

鉢植えをよく見ると、そこには小さなカエルの姿があった。アニマトロニクス(アニマル+エレクトロニクス)と呼ばれる精巧な生物ロボットだ。人工の滑らかな皮膚を持ち、骨格や筋肉を思わせるリアルな動きをする。そしてこの小さなカエルは、そばにしゃがみ込まないと聞こえないくらいの静かなトーンで、私たちに話しかけている。英語で。

ここが非常に悩ましく、且つ展覧会の核心にも触れそうなポイントだが、本展の大きな見所である「語りかけるアニマトロニクス」は、3作品いずれも英語でしゃべる。そりゃそうだ、イギリスから来ているのだ。

会場でもらえる鑑賞ガイド(HPからダウンロードも可能)記載のQRコードを読み込めば、彼らのセリフの日本語参考訳を読むことができる。ならその訳を手元で読みながら話を聞けばいいか……と思いきや、これがびっくりするほど長いのである。しかも内容は自己の内面を見つめさせるもので、集中して読まないと理解が難しい。せっかくカエルが口をパクパクさせ、小首を傾げながら語り掛けているというのに、そちらを見る余裕が生まれない。

鑑賞者の英語がネイティブレベルではない場合、おそらく最もしっかりと作品を味わえるのは「事前に日本語訳を読み込んで内容を掴んでおき、その上でカエルと向き合う」方法だと思う。筆者は覚悟を決めて、レストランでの休憩中に全てのセリフを読み込み、あとでもう一度カエルと対面しに行った。手間ではあるが、どうしても時間をとりたくなるほど、その語りの内容は魅力的だったのだ。

カエルと正面から見つめ合う

冒頭でカエルは鑑賞者にこう頼む。「今、あなたの額に指でアルファベットのQを書いてみてください」と。詳しくは触れずにおくが、それが一体何? お安い御用さ! と書いたあとに続く気付きは衝撃的で、殴られたように「ガーン」となってしまった。

ちなみにアニマトロニクスたちの声の出演は、ライアン・ガンダーの子どもたちが担当しているという。こんなに示唆的なことを語ってくれるのだから、声優さんか誰かに訳を読んでもらって「日本語吹き替え版」を作ってくれたらもっと受け止めやすいのになぁ。そう思ってから、また自分の思考に「ガーン」とショックを受けた。世界は自分の目の前で繰り広げられるショーではない。向こうがこちらに合わせなければならない理由なんて何ひとつ無い。自分は無意識のうちに、どれほど傲慢でいたのだろうか。怖い……チケット売り場の前にして、すでに涙目である。

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