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唯一無二の見応えを実現する緻密な構成と緩急のついた芝居

『ザ・ロイヤルファミリー』では、ほぼ毎話の最後に競馬のレースシーンが描写されるが、それぞれのレースに込められた思いは各話によって異なる。
第1話では、栗須が競馬事業部の財務調査の中で出会った人々の話から馬への思いを知った後にレースが描写された。このレースを通じて伝えられた感謝は栗須にとって、生涯、税理士事務所を営んできた亡き父に対して抱え続けてきたわだかまりを解消するものだった。
また、第2話は、ロイヤル所属の競走馬を育成する林田生産・育成牧場の牧場長・林田純次(尾美としのり)による自ら育てて来たロイヤルイザーニャと林田の亡き息子への思いが詰まったレースとなった。生まれつき足が悪く、誰もがレースで勝つことはないと思い込んでいたイザーニャが新たな調教師・広中博(安藤政信)による調教の結果、1着を勝ち取る。誰よりもイザーニャの勝利を願っていた林田が泣き崩れる姿には自然と涙を誘われた。

第4話では、馬を大切に思うが故に問題を起こして競馬学校を退学となった騎手・佐木隆二郎(高杉真宙)が、暴れ馬・ロイヤルホープに寄り添い、見事にレースで勝利する。ホープの生産牧場であるノザキファームを営む野崎加奈子(松本若菜)をはじめとした野崎家の人々の思いはもちろん、佐木が長所を生かして本領を発揮するまでの思い、佐木の勝利を願う親の思いも詰まった勝利となった。

競走馬がレースで出走するまでには、生産牧場主、購入した馬主、調教師、騎手などさまざまな人が関与する。そして、その人たちの分だけの馬にかける思いがある。そうした登場人物たちの思いやバックボーンを丁寧に描写しながら、各話の最後にレースを見せる構成にすることで、一つひとつのレースに込められたものを自然と感じさせる。すべてを知った上で見届けるレースに、視聴者が思わず涙してしまうのも無理はない。
そして何より、レースシーンに、カットバックされて映る登場人物たちの表情から受ける感動はひとしおだ。息を飲み、願うように見守る姿、終盤にかけて思わず「いけー!」と声を張り上げてしまう様子、勝利を見届けて放心する表情。林田を演じる尾美もノザキファームの牧場主・野崎剛史を演じる木場勝己も、レース以外では冷静な大人の振る舞いを見せているからこそ、レースを見ているときの抑えきれない興奮が際立って伝わってくる。感情を緻密に積み上げていく構成とベテラン俳優たちの緩急のついた芝居の掛け算によって、唯一無二の見応えを実現しているのだ。