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ボリウッド一色からの変化。現在のインド映画事情
インドの新星・パヤル監督自身にも注目しておきたいところだ。芸術家の母を持つ彼女は、幼い頃からアートに触れて育ってきたが、映画づくりを志したきっかけはなんだったのだろうか。
パヤル:映画に対する興味はずっとありました。私が9、10歳くらいのときに母親がビデオインスタレーションの作品を作り始めて。大きなプロダクションではなく、お金もなかったので、母が家のテーブルの上で編集の人と一緒にテープを何度も何度も繰り返し見ながら、色々な話をしたり、計画を立てたりしているのを見ていたんです。何だか面白そうだなと思い、子ども心にぼんやりと編集をやりたいなと思うようになりました。
ただ、映画学校で編集のコースに応募するのを母が許してくれず、監督のコースに応募するのはOKが出たんです。そうして、監督としての道を歩むことになりました。

「インド映画」と言うと、日本においてはやはり2022年公開『RRR』をはじめとしたボリウッド映画が記憶に新しい。派手な歌と踊り、アクションシーンが観客の心を踊らせるボリウッド映画とはまるで反対といっていいほど、『私たちが光と想うすべて』は静謐だ。本作のようなオルタナティブな作品を作ることについて、パヤル監督は以下のように語る。
パヤル:インドでは、何もボリウッド映画だけが作られているわけではなく、ドキュメンタリーなども含む多様なインディペンデント映画が作られています。ただ、問題は配給の構造にあるんです。やはり配給会社としては、ボリウッド映画に限らず、成功が見込まれる、よりメインストリームな映画を配給する傾向にあります。
でも最近では、配給会社も作品の偏りが出ないように意識しているようです。リスクを冒しながらも色々な作品を配給していこうという流れが、少しずつではありますが出てきていると思います。

日本は国際的な映画祭での受賞歴がある作品に注目が集まる傾向があると言えるだろう。しかし、パヤル監督の過去のインタビューによると、インドでは多様な言語が話されていることもあってか、『カンヌ国際映画祭』など国際的な映画祭で評価を受けた作品よりも、各地域で作られた作品に地元のファンが集まる傾向があるのだそうだ。
本作はインド映画史上初の「カンヌ国際映画祭グランプリ」受賞となったわけだが、どのような反響があったのだろうか。またその評価を受けて、これからどのように映画を作っていくのか。
パヤル:『カンヌ国際映画祭』で受賞したことが人びとの関心を呼んで、地元だけでなくインド全国での上映が実現しました。そういう意味では、受賞の意味は大きかったと思います。
インディペンデント映画を作るにあたって、お金の出所はたくさんあるわけではなくて、資金を調達するのが非常に難しいんです。ただ、こうやって賞をいただいたことで、資金調達の面だけでなく、観客の方からもサポートが得られると思います。今作ろうとしている作品は完成まで2年くらいはかかりそうですが、それまで皆さんに覚えていただけていればいいなと思います。

『私たちが光と想うすべて』

2025年7月25日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかロードショー
監督・脚本:パヤル・カパーリヤー
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム
配給:セテラ・インターナショナル
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