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好奇心と恐怖心を掻き立てるAI技術は、音楽をどこへ導く?
―シンセサイザーとかサンプリングの歴史を振り返っても、はじめはそういう違和感を持たれていたと思うんですが、いつの間にか多くの人が順応して不可逆的に普及していく流れがあったわけですよね。
小山田:その通りですね。
―そう考えると、AIの技術に関してもこれから先どうのように意識の変化が起こっていくかはわからないですよね。単にネガティブな反応が広まっていくだけではないのは確実かなと。
出戸:そう思います。AIの技術を音楽作りの補助としてリスナー側も受け入れつつある気もするし。その一方で、そのうちに「誰々が作った」という枠組みを超えて、作り手の実在とは関係なくただ気持ちいいものを受け入れるようになっていって、気付いたらみんなAIが作ったものを聴いている……みたいな未来もあるかもしれないですよね。
―一種のディストピア観としてはそうなりますよね。さらには、あらゆるコンテンツがAIの吐き出したものの孫引き情報化していって、今度は人間がそれを参照するっていう……。文筆の世界だと、既にその問題が顕在化しつつある気もしています。
出戸:そうすると、ツルッとはしているけど全然面白みがない、みたいなものが今以上に世の中に溢れる気もしていて。
小山田:たしかにそれもわかる。
―こういう話をしていると、以前に出戸さんにインタビューした際に話してもらったような、どこかに理解を拒むものがある存在への愛着というか、「完全な不完全状態」みたいなものの希少性と、それを追求することの価値がより一層増していくようにも思うんですが。
出戸:少なくとも僕はそう思っているんですよね。
―そして、その「完全な不完全状態」は、先ほどから話に出ている「AIによるあえての文脈の裏切り」とは、ギリギリの部分で異なる何かであるかもしれない、と。
出戸:そう。それこそ初めてCorneliusを聴いたときにも感じたことで。『FANTASMA』はものすごく構築的で過剰といえるくらいに音が詰め込まれているけれど、不気味さのようなものを感じましたし、逆に『POINT』はミニマルな音の世界がどこか別の場所に通じているような感覚がありましたから。自分の身体がなくなっていくような怖さというか。
小山田:恐くもあり、気持ちいいっていうね。自分もそういうものに惹かれるし、味わったことのない感覚が少しでも入っているものを聴いてみたいという気持ちが強いので。
―AIが今現在劇的な進化を遂げつつあるからこそ、余計に強くそう思うところもあるんでしょうか?
小山田:そうかもしれない。これまでも音楽にまつわるテクノロジーってずっと進化を続けてきて、マルチトラックレコーディングで擬似的な音の空間を作れるようになったとか、DAWの登場で時間軸を自由自在に操れるようになったとか、いろいろなイノベーションがあったと思うんです。
でもAIに関しては、いよいよ人間のクリエイティブの根幹を侵食してくるような動きだし、これまでの動きとは全然フェーズが違うなと思う。そういうタイミングに音楽をやっている身としては、じゃあ自分はこの劇的な転換の中で何ができるんだろうと考えざるを得なくなりますよね。だからこそ、AIに対する好奇心を抑えることができないんだと思うんです。

出戸:そういう意味での好奇心は僕もとてもよくわかります。革新性におののきながらも、いかにツールとして使っていけるかという。人間とAIの主従が逆転してしまうことへの恐怖も常に抱えつつ。
小山田:逆に言うと、そういう怖さとか罪悪感が広くあるうちは、AIで作った曲が大ヒットして、しかもその曲を送り出す側がAIを使って作ったことをポジティブな情報として発信することは起こらないだろうね。でも、どこかでそれすら逆転するような気もする。
出戸:同じ作品を人に見せて、AIが作ったと伝えた場合と、人間が作ったと伝えた場合だと、後者のほうが断然好感度が高いという調査もあるらしいです。今はそうかも知れないけど、いつかその差が縮まって、「本当に感動できるAIが作った曲」みたいなものが現れないとも限らないな……と。
―「泣けるAI音楽」がYouTubeでプレイリスト化されて人気になったり……(笑)。
出戸:そう(笑)。
―なんというか、「創造性」の概念や定義が変わってしまうタイミングなのかもしれないなと思ったりもします。超ロングスパンでみれば、今の世界で共有されている「創造性」の概念というのは、人間が言語を獲得してからこちらの局所的時間の内部だけで通用してきたものなのかもしれないな、とか。
小山田:実際、「プロンプト・アーティスト」みたいな考え方も広まってきてますしね。それってもう、これまでの「創造性」の範疇では捉えきれない考え方な気がする。
―そう考えると、人間が寄り集まって演奏する「バンド」っていうのは、そういう変革と真っ向からぶつかりつつも、独自の「創造性」が保存され続ける領域になるのかなとも思うんです。
小山田:そうかもしれない。楽器を実際に手に持って演奏するとか、そこで鳴っている音をお互いに聴くみたいなことはAIにはできないから。
―前々から、体験としてのライブの価値が上がっているという話はありましたけど、こういう状況を経て、余計にそうなっていくかもしれないですよね。
出戸:たしかにそうですね。ライブをやる / 観ることの意味もどんどん変わってきそうですよね。
―なんだか、『””DELAY2025″”』が余計に楽しみになってきましたよ。
出戸:ぜひ楽しみにしていてください(笑)。

『””DELAY2025″”』

2025年6月7日(土)
会場:長野県 原村 八ヶ岳自然文化園 コンサート広場
OPEN 14:00 / START 15:30
出演:OGRE YOU ASSHOLE、Cornelius、D.A.N.
https://ogreyouasshole.com/live/2966/