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映画『ノスフェラトゥ』レビュー リリー=ローズ・デップ代表作になること確定

2025.5.29

#MOVIE

第97回アカデミー賞で撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門にノミネートされた映画『ノスフェラトゥ』が公開中だ。

名作ホラー映画である『吸血鬼ノスフェラトゥ』(F・W・ムルナウ監督 1922)のリメイクとなる本作。監督を務めたロバート・エガースは、幼い頃に『ノスフェラトゥ』に夢中になり、いつかは自分なりの『ノスフェラトゥ』を作りたいと思っていたという。

本稿では、オリジナルと比較した『ノスフェラトゥ』の現代性、そしてエガースが生み出した美しさを探る。

ノスフェラトゥの墓を掘り返す

腐敗と腐臭。ロバート・エガースが『ノスフェラトゥ』(2024)で描く新世紀のヴァンパイアは、紳士の顔をした華奢な悪魔ではない。美しきアンチヒーローでもない。悲しみに暮れる疎外されたクリーチャーでもない。傷口からウジ虫が湧く、生々しい食欲旺盛なアンデッドだ。ぼやけた輪郭でシルエットのように描かれるノスフェラトゥ=ヴァンパイア。

幼い頃のロバート・エガース監督は、F・W・ムルナウ監督によるサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)の粗悪なVHS版のイメージに、ただならぬ恐怖を覚えたという。禿げ上がった頭、大きく尖った耳、グリースでペイントされた眉毛、ギロついた目ーーまさしく死神のイメージだ。20世紀初頭にマックス・シュレックが演じたノスフェラトゥのイメージは、「ホラー映画の発明」とされている。

エガースが、美しく修復されたプリントではなく、劣化したVHSの不鮮明なイメージを新世紀ノスフェラトゥのインスピレーション元にしたというエピソードは示唆に富んでいる。子供時代における恐怖の原体験は記憶の中で肥大化し、やがて実際のイメージとはかけ離れていく。F・W・ムルナウが創造したノスフェラトゥの正確なイメージではなく、ある意味で「間違ったイメージ」が、エガースの頭の中でぐんぐんと成長していき、本作の新しいノスフェラトゥ像に至ったと推察する。エガースは霊を召喚するように、そして墓を掘り返すように、ノスフェラトゥのイメージを創造したのだ。

『ノスフェラトゥ』は、エレン(リリー・ローズ・デップ)の「Come to me(来て)」という呪文のような言葉で始まる。ノスフェラトゥ(ビル・スカルスガルド)の霊を召喚するような儀式だ。エレンが野外で痙攣するショットに続き、カメラが地下へ、更に深い地下へと潜っていくのは、ノスフェラトゥの墓を掘り起こすためである。エガースはF・W・ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』から、エレンとノスフェラトゥのエピソードを中心に抽出している。エレンとノスフェラトゥによる、内なる「交信」。限りなくモノクロに近いトワイライトブルーグレーの淡い色彩。風にそよぐレースの白いカーテン。夢遊病者のように歩くエレンは、不穏な冷たい風が吹く窓の方へと身体ごと吸い込まれていく。エレンの纏う白いナイトローブの美しさや、足音を立てないゆっくりとした歩き方は、まさしく「夢遊病のダンス」を見ているかのようだ。とめどなく耽美なファーストシーンの時点で、この作品がリリー=ローズ・デップの代表作になることが既に約束されている。

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