江ノ島を拠点とするバンド・maya ongaku。2025年6月に全米ツアーを終えた彼らが、再びヨーロッパの地に降り立った。前回2023年のツアーを「サバイバル」と振り返る一方、今回は余裕を持ってツアーに臨んでいる。ドイツ各都市での圧倒的な手応えを感じながら、バンドとしての新境地を見せる3人。リハーサル直前に話を聞いた。
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「サバイバルから音楽に集中できる環境へ」ーー2度目のヨーロッパで掴んだ余裕
―まずアメリカツアーを終えて、このヨーロッパツアーに入ってどうですか?
園田(Gt,Vo):肉体的にはアメリカの方が全然大変でしたね。ホテルも自腹だったのでできるだけ節約しなきゃいけなくて。
―連載「maya ongakuの米国西域記」に書いてたやつですね。
園田:そうです。ご飯もたまに出るんだけど、基本的にないものとして考えてるから。その精神的な面も含めたキツさは全然違う。できるだけ節約したいから3人部屋で、1人は絶対床で寝なきゃいけないみたいなケースもあり。
―じゃんけんで負けた人が確定で?
園田:そう、絶対じゃんけん負けで1人は確定。僕、じゃんけんめちゃくちゃ弱くて、最初の方はずっと負けてたんですけど、後半は勝てるようになって(笑)。
高野(Ba):肉体的にはアメリカの方が大変だったね。

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。
ーじゃあもう2回目のヨーロッパツアーは、気持ち的にかなり楽になった?
園田:だいぶ楽ですね。普通に日本ツアーぐらいの感じがある。今回のツアーは夏だし気候が快適。その上もてなされている水準でいったら、格段にあがってる気がする。
池田(Key,Sax):アメリカの方がやっぱりきついから、そっちを先に経験したからかもしれない。あと2回目というのもシンプルにありますね。
園田:海外ツアーの経験も増えて、やり方が分かってるし、前回よりもホスピタリティもある。ソールドアウトする地域も出てきて、ちゃんと集客があるから、ベニュー側もちゃんとケアしてくれる。前回は雑魚寝レベルのやつとか全然あって。船の中で寝させられたり。
高野:傾いてる中で寝るっていう……。
園田:常にちょっと揺れてるみたいな(笑)。
―それに比べちゃうと、もう大きな成長ですね!
園田:バンドの成長とともに大切に扱われてる感がある。前は知られていなかったから、「お前ら誰?」ぐらいの感じから始まって。今回は行く先々で自分たちのことを好きでいてくれる人たちがいるし、毎回イベントのプロモーターも好きで広めたいって思ってくれてる人が多くて。仲良くなって、一緒に夜遊んで、ちゃんと寝るところも用意してくれて、朝飯も作ってくれたり。
―具体的にどの街で反響が大きかったですか?
園田:ドイツは基本全部めちゃくちゃ良かった。ミュンヘンも最高でしたし、シュトゥットガルトとか。あと、スイスのジュネーブにも行ったんですよ。
池田:ドイツは反応がいい。基本的にお客さんの反応が一番いいし、やっぱり素直につながってる感じがある。音楽的に。
園田:ロンドンとかもソールドアウトしたし、すごい良かったけど、やっぱりドイツの方が音楽的に楽しんでくれてる感じ。フィードバックというか、ちゃんと反応がガンガン出る。

―ヨーロッパツアーも、ステージが上がっていくプロセスの中で楽しめてる?
園田:楽しいです。前回は音楽の前に、ツアーを完走することに力を使ってて。サバイバルですよね。最低ラインが担保されてないから、すぐ風邪ひいちゃったりして、そうするともう音楽どころじゃない。今回はそこが超安定してるから、ライブにめちゃくちゃ集中できる。
池田:例えば楽器も、前は簡略化して演奏していたけど、今回はできるだけ忠実に、使いたい楽器でできている。240ボルトでもいける機材を全員が集めて。
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「予定調和のライブは恥ずかしい」ーー毎回変わるインプロビゼーション
―以前別の媒体で、ベルリンのオーディエンスを見て「踊らせたい気持ちが芽生えた」と書いてましたけど、そういう実感はありますか?
池田:前回のヨーロッパから今回のヨーロッパで、新しくやった曲ってEPの2曲ぐらいじゃなかったっけ?

園田:そうそう。ライブでアレンジしていくことで、歌モノの曲なんだけど、その後半部分にめちゃくちゃ長いインプロを入れたりとか。その歌の分数と同じか、それより倍ぐらいのインプロ(即興)ゾーンをライブアレンジに加えたりして。
池田:今回特にヨーロッパで、そういうゾーンが欲しくなったね。
高野:同じ曲なのに毎回全然違うことになるから面白い。

園田:そう。こっちは何千回と聴いてるし、変化があったほうが僕らも楽しいから。
―アムステルダムとかだと結構大きな会場でプレッシャーもありそうですが。
園田:サイズが上がれば上がるほど、このインプロで常に新しいことをするのに重みが出てくる。アムステルダムはもうそのミスすら聴かれちゃう、気づかれちゃう。
池田:しかも、もう一番見えるところにGoくんがいて腕組んでるじゃんみたいな(笑)。
園田:それでもなんか決め込んだライブをやってる方が恥ずかしい。自分たち自身でも飽きちゃうし予定調和みたいなのがすごい寒い感じがする。だから今のスタイルがお客さんと一緒に楽しめる唯一の方法。この後どうなるのか分からない感じを、シェアする感覚。“異様の人”とかも、俺がソロするタイミングが絶対毎回違うし。面白くなったらそれが採用されて、それを何回かやって、また変えて。結局ずっと変化させていく。
―海外でやることに対して、成長したなと思う部分はありますか?
園田:何かミスしたときに、みんななんかやばい顔をしなくなったみたいな。冷静にできるようになったから、前はミスした瞬間に、もうすべてが崩壊するんじゃないかってパニックになってたけど、今は誰かがミスっても、全然それに対して何も感じなくなった。
―基本はハプニングが前提みたいな。
園田:このツアーの初日、ロンドンで池田がまた鍵盤を壊したんですよ。
池田:またって(笑)。
園田:前回のベルリンでもやったんだけど、今回も音が出なくなっちゃった。でももう誰も慌てない。別にどうにかなるし、なんなら逆におもしろいやって感じで。もしサイコロでそういう目が出ちゃったら、そのカードでできることがあるかもしれないし、できないかもしれない、最悪かもしれない。でもそういうのも別に、まあいっかと(笑)。次があるからいいんですよ。
―アメリカとヨーロッパで観客の反応に違いはありますか?
園田:アメリカはソロの後、絶対拍手があるんだけど、ヨーロッパはやっぱり違う。それは多分聴き方の文化。ヨーロッパはトランスしている時が一番リアクションがいい。お客と一緒にドカーンってぶち上がっている瞬間がなくても、ジリジリ盛り上がって、いつパンと終わってもいい。
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「海外ツアーはそんなに難しくない」ーー次世代への音楽哲学
―年間スケジュールを見ると、南ドイツ、フジロック、中国ツアー、そしてアメリカ……。世界を飛び回ることができるのは、Guruguru Brainや幾何学模様が培ってきた下地が大きいですか?
園田:中国からそのままアメリカへ行くんです。中国と合わせて3週間ぐらい? でも帰ってきたらアジアツアーもあって、ずっと動いてる。やっぱり幾何学がいろんなところにヒントを落として、「できるよ」ってことをめちゃくちゃ伝えてたから、その影響だと思う。僕らもそれに続いてる感じ。
―コペンハーゲン、ストックホルムは初めてですよね。
池田:楽しみしかないですよね。聴かれ方とかほんと想像できないから、もう行ってみて出たとこ勝負って感じ。
―バンドで海外に挑戦することの大変さとタフさについて、若い世代に向けて何か伝えるとしたら?
園田:意外とできるなって感じ。マジでできると思うし、別に基本的なことやってるだけだから。
池田:マジで「音楽って難しい」みたいな感じをなくしたいんですよ。
園田:メジャーのアーティストとかの「コード進行がすごい」みたいな話って、超権威的な価値観だと思ってて。西洋音楽がコードワークで発展してて、バッハが天才、ベートーヴェンが天才みたいな。その前はもっと反復リズムだけの音楽があって、それを世界各地でやっていたのを、わざと学術的に権威化して、音楽は天才がやるものって段階にしちゃった。それをロックが壊したのに、結局またメジャーのシーンとかで複雑になっちゃってる。それをどんどん壊したい。だから俺らって基本ループ構造だし、ワンコードでもいい。複雑なのはまったくいらない。
池田:なんなら今流行りの一人でのトラックメイキングよりも簡単な気がする。一人で宅録してるより、みんなで一斉に音を鳴らすほうが、何かしらのハーモニーになって楽しいし。例えばドラムが必要でとか、そういう固定観念もいらないと思う。ドラムがいなくても、バンドとして全然成立する。
園田:要するに「やるかやらないか」ですよね。できるかどうか考えるより、やってみちゃう。別に手札にあるカードで楽しむ方法はいくらでもあると思う。出てきたチャンスを全部拾って、持ってるもので最高のことをする。それだけなんですよ。

取材を終えて観た公演では、各曲でインプロビゼーションの時間をたっぷりと取り、まさに「出たサイコロの目を楽しむ」姿勢を体現していた。終演後話しかけたら「今日はいい目が出ましたね」とニヤリと笑っていた。翌日、彼らは北欧へ向かった。コペンハーゲン、ストックホルムでの初公演を控え、「楽しみしかない」と語る表情は確信に満ちていた。
『rhythm echo noise』
maya ongaku”と”WWW”による共同企画「rhythm echo noise」が8月22日に決定!ゲストアクトにMinami DeutschやGuruguru Brain Crewを迎えたスペシャルパーティーを開催。
『rhythm echo noise』
-Guruguru Brain special-
ACT
maya ongaku
Minami Deutsch
Guruguru Brain Jam
Guruguru Brain DJs
VENUE
SHIBUYA WWW X
https://www-shibuya.jp/
2025年8月22日(金)
open 18:00 / start 19:00
adv ¥4,500 / door ¥5,000 (共に税込/ドリンク代別)
TICKET 発売中
チケットぴあ|https://w.pia.jp/t/rhythm-echo-noise/【Pコード:301-270】
イープラス|https://eplus.jp/rhythm-echo-noise2025/
ローソンチケット|https://l-tike.com/rhythmechonoise/【Lコード:72500】
Zaiko|https://wwwwwwx.zaiko.io/e/rhythm-echo-noise2025
主催・企画制作:BAYON PRODUCTION / WWW
お問い合せ:WWW 03-5458-7688