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『Pearl パール』ーー「ここではないどこか」に行けない苦しみを綴る悲しいドラマ
『Pearl パール』は、時代が60年前の1918年にまで遡り、いかにして『X エックス』の老婆は殺人鬼へと変貌したのか、その発端を描く物語だ。いわゆる「前日譚」であるため、こちらを最初に観ても楽しめる。むしろ、こちらを先に見れば、『X エックス』で老婆が「ブロンドが嫌い」と言った理由など、言葉の面白さや切なさを感じられるかもしれない。
キャッチコピー「映画史上、もっとも無垢なシリアルキラー誕生」が示すように、主人公の少女・パールはどこまでも純粋に映画スターを夢見ながら、家庭での母からの抑圧や、病気の父の介護に追われ、精神が歪み狂気が噴出していく。コロナ禍を連想させる、当時スペイン風邪が流行していた背景が、よりパールの「閉塞感」を強調している。ジャンルはもはやホラーという枠には囚われていない、「ここではないどこか」に行けない苦しみを綴った、悲しいドラマでもある。
映写技師の男がパールに見せるのが、彼女が真に望んではいないであろう「ハードコアポルノ映画」であることも切ない。また、劇中の「かかし」は1939年の映画『オズの魔法使』のオマージュであり、その主人公のドロシー役のジュディ・ガーランドが撮影当時にひどい搾取、虐待を受け、精神のバランスを崩していったことも、パールに重なって見える。
なにより、全編に渡ってミア・ゴスの熱演と表現力に圧倒される作品でもある。オーディションでの悲痛な声はとてつもなく胸が痛い。特に7分にもわたるパールの独白からは、そこまで彼女を追い詰めた環境とこれまでがいかに絶望的なものだったかを改めて思い知らされる。「脳裏に焼きつく」ほどの衝撃があるエンドロールまで、ぜひ見届けてほしい。