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音楽家・小瀬村晶が、初めて「伝えたい」と思ったこと。子どもたちや未来のために

2025.7.16

#PR #MUSIC

「なんで?」と問い続ける声が未来を照らす

─異物感といえば、デヴェンドラ・バンハートとのコラボ“Ongaku”のアレンジも印象的でした。しかも彼は日本語で歌っていますよね?

小瀬村:彼とは以前、“Someday”という曲を一緒に作ったのですが、その時から「次は日本語で歌いたい」と言ってくれていたんです。でも当時は「アメリカ人が日本語で歌うってどうなんだろう?」みたいな、ステレオタイプな思い込みが自分にはあり、そのアイデアにあまり積極的になれなかったんですよね。

でも今回のプロジェクトを始めたとき、ふとその言葉が頭をよぎり、「あれ? 別に悪いことじゃないな」と思い直したんです。デヴェンドラは本当に日本が好きで、日本に来るたびにレコードを掘っては、「これ知ってる?」って僕に聞いてくれるんです(笑)。1970〜1980年代のいわゆる「歌謡曲」的なレコードが多くて、細野晴臣さんのことも崇拝しているんですよ。

きっとデヴェンドラにとっての「日本」のイメージは、たとえば細野さんの『はらいそ』や『トロピカル・ダンディー』だったりするんですよね。僕も1980年代生まれですけど、自分より少し前の日本の音楽を改めて聴き直してみて、今回はそこに敬意を込めて曲を作ってみようと思いました。

─デヴェンドラの考える「日本」のイメージを、具体的にはどのように音像化したのですか?

小瀬村:たとえば尺八や三味線、琴、笙など和楽器的な音色を用いつつ、リズムセクションはむしろジャズ寄りにしています。ドラムはECM(※)のようなアプローチで、ライドシンバルを多めに。ベースはフレットレスベースを使っています。ベースを演奏してくれた織原良次さんはジャコ・パストリアスが大好きなので、少しWeather Report的なニュアンスも入っていますね。

送った曲を彼はすごく気に入ってくれて、仮歌にはなかった<深く〜>という日本語のコーラスを入れてくれたりして。彼は「仕事として音楽をやらない」人なんですよ。そんな彼が喜んでくれたというのは、自分にとっていちばんの収穫でした。

※ジャズや現代音楽を中心とした、ドイツ・ミュンヘンに拠点を置く音楽レーベルのこと

─歌詞のメッセージや、冒頭でおっしゃっていたアルバム全体のコンセプトとも深く関わっていると感じたのが、表題曲“MIRAI”という曲です。ベンジャミン・グスタフソンをフィーチャーしたこの楽曲は、まるで宇宙飛行士の目線で地球を俯瞰したとき、人間同士の争いごとがいかにちっぽけなものであるかを気づかされるような、そんなストレートな歌詞が感動的でした。

小瀬村:これまでの自分は、いわゆる「メッセージ性のある音楽」をあまり作ってきませんでした。どちらかといえば、「自分に必要な音楽を、自分のために作ってきた」というか。誰かに何かを伝えたいというより、自分の内側にある感情を整理したり、癒したりするためのものだったんですよね。メッセージを音楽で伝えるのは、むしろシンガーソングライターの仕事だと思っていた部分もあります。

でも今回は、最初に話したように外に向けて伝えたい気持ちが芽生えました。中でもこの“MIRAI”は、言葉ではっきりと「伝える」ことを意識して作った曲なんです。そうすることで、メッセージというものを自分なりに形にしてみたかった。

それともうひとつ、この曲には「次世代」、つまり子どもたちに向けた視点も込めています。歌詞も、どこか子どもの目線で世界を眺めているような感覚を意識している。純粋で、でも本質を突くような……対立や分断といった社会問題や環境問題に対して、素直に「おかしいよね?」と言える感性が、子どもたちの中にはあると思うんですよね。


―<なんで、なんで、なんで、同じだよ なんで、なんで、同じさ、同じなんだ>という歌詞は、そんな子どもならではの素朴な疑問を表しているようです。

小瀬村:子どもって、何に対しても「なんで?」って素直に問いかけてくるじゃないですか(笑)。すごく本質的なことを、当たり前のように尋ねてくる。おそらく頭のどこかに「子どもの問いかけ」のイメージがあったんでしょうね。

曲を作るとき、僕の場合は作詞と作曲をほぼ同時に進めていくことが多いんです。メロディを作りながら自然に歌詞が出てくるというか。歌も「音」として捉えていて、「どの音で発音されるか」が内容と同じかそれ以上に重要なんです。楽器と同じように、発声や発音のニュアンスによって意味や感情の伝わり方がまったく変わってくるので。

長くインストゥルメンタル曲を作ってきたからなのか、そうした細部にはかなりこだわっていますね。たとえば出てきたメロディに対して、「どんな発音なら自然に乗るか」を探ります。そうすると、そこに導かれるように言葉が出てくることが多いんです。

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