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4. “釘”——過去最短の歌もの曲。サウンドから垣間見える、脱ジャンル的な意識
―“釘”もタイトルが気になります。
君島:これは黒沢清の架空の新作『釘』のテーマソングを作ろうと思って作った曲です。人間関係が壊れて物理的に釘を打つ行為に安堵するっていう欠落を抱えたおじさんが家中に釘を打ちまくるんだけど、もう釘を打つ隙間がないって、外の世界に出て釘を打ち始めちゃうっていう。歌詞も全部1日で書いて、1日で録ったんですけど、一番時間かかりました。
―その発想はどこから出てきたんですか?
君島:デーデレデーデデデーってイントロだけずっとあって、釘打ちっぽいなって思って「黒沢清の新作じゃん!」って妄想が膨みました(笑)。これも言葉にイライラしていますね。
「天使」「魔法」「永遠」とも近いですけど、「傷」に対しても似たような感覚がすごくあるんです。傷があると優しくしてもらえるし、アピールになるじゃないですか。だから僕は慎重に扱わなきゃいけないと思った時期があって、<傷が偉そうに笑う>って言えてよかったです。
―言葉の扱い方、言葉への向き合い方が今作では重要なポイントなんですね。
君島:これは自戒もあります。初期の曲は景色がとにかく重要で、言葉それ自体に比重を置かないようにしていたんですよ。言葉よりも、この景色のあとはこの景色が来るっていう構造のほうがとにかく大事だった。
でも最近はライブで歌うことが増えて、自分の言葉一つひとつに責任がないと歌う意味がないんじゃないかと思って。今は誰にでもわかる言葉で、自分だからこその意味を込めながら書いていくことに興味があります。そういうことをこのEPでは心がけました。
―これは自己言及的な歌なんですか?
君島:そうです。自分の意見があるのに、僕は人の意見を優先しなきゃいけないと思って育ってしまったので。口の中が血だらけになっているのに、口を開かないみたいな。俺の口の中には釘がいっぱい入っているのかもしれない。
―“釘”は収録時間が2分を切っています。
君島:最低5分はないと自分の音楽の世界を見せられないと思っていたし、短い尺で何かを表現しようと思えたこともなかったんですよね。でもこういう曲もありなんじゃないかしらと思ったし、広がりを感じているからこそできたEP、曲たちだなと思います。
―このサウンドを選び取った理由は?
君島:これはめっちゃキメラです。イントロはピッチが揺れたシンセ、メロはハードバップ、ドラムはマスロックみたいな作り。俺も何かはよくわかってない(笑)。
―コラージュ的な発想でそういうサウンドを志向するんでしょうか?
君島:単純に、そうやって頭の中で遊ぶのが好きなんですよ。この曲を美空ひばりが歌ったらどうなるとか、椎名林檎の新曲だと思って書いてみようとか(笑)。こういう曲は短くてスピード感があるからすごく試しやすくて、遊びながら作りました。曲として成立しつつジャンルで定義づけられないものになったから、個人的によかったなと思っています。
―この曲のドラムだけ取り出して「これはマスロックですね」とはならないし、曲として見たときにジャンル不明の何かになっています。君島さんの中にはポストジャンル的な発想、ジャンルを混ぜることで新しい音楽の形を模索するような意識はあるものですか?
君島:ジャンルのことも、俺自身が何かも、マジでずっと考えないようにしています。これは“Death Metal Cheese Cake”のメタルの話と似ていて、何をもってマスロックとするかって聴いた人によって違うと思うけど、自分は着眼点がズレてると思うところがあって。自分が作るものを「ハイパーポップだよね」とか「宅録っぽいよね」とか言われたくないし、ジャンル的な考え方は意識して回避しようとしています。
―脱ジャンル的であることを意識しているわけでもない?
君島:それはかなりあるかもしれない。「ないもの」を何か作りたいわけじゃないけど、自分の中にあるいろんなものが混ざったものをそのままに作りたいし、自分の中で聞こえているものを作りたいんです。
だから定石も一度試してみるけど、とにかく今までやったことのない選択を繰り返す。そうするとテンションがめっちゃ上がるんですよ。ここでこう舵を切ると、それまでの曲の景色も全然違って見えるじゃん! って。1曲目もそういう作り方です。

―脱ジャンル的な表現ってひとつの潮流としてあると思いますけど、君島さんはどうしてそういう表現をするんでしょうね。
君島:(松永)つぐみさんに教えてもらった「星座効果」って考え方が僕は好きで。点と点が結ばれることで違う意味が見えることってあるよねって考え方のもとに僕も生きている気がする。この曲は完全にそういうことですね。
―繋がりえないはず点と点に線を引いてみて、別の意味を立ち上げる。
君島:やってみると、「ここはこうしてみようぜ」って転がり始めるんです。