INDEX
2. “WEYK”——疾走感のあるギターロック、「あたし」という一人称
―次は“WEYK”です。
君島:これも調子悪いですね。最悪。“WYKE”って聖別とか、捧げる、犠牲にするって意味合いがある印欧祖語(※)で、これは自己犠牲の歌です。自分のものを人にあげ続けて生きてきた人間が、「全部返してくれ」って走り出す歌。
―サウンドも疾走感があります。イントロを聴いて“笑止”のような曲が始まるのかなと一瞬思いました。
君島:やったことないシリーズです。それは疾走感のあるギターロックもそうだし、(石若)駿さんに初めてツインペダルを踏んでもらったこともそう。こういう音楽に憧れがあるから作った曲で、合奏で録ってサウンドは後から結構いじくりました。
※インド・ヨーロッパ語族の共通の祖先言語で、ラテン語やギリシア語、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語など、多くの言語の起源となる言語のこと
―「あたし」という一人称が使われているのが印象的です。
君島:自分自身の歌として作ったら「あたし」になっちゃいましたね。<かさぶためくるたびひとりじゃないみたい あたし>って言う人って、他者に対してすごい距離がある気がするなと思って書いています。“Lover”とはまた違うけど、自分と他者の関係性についての歌ではあると思う。
―一人称は「あたし」だけど、君島大空がここにいるんですね。
君島:うん。報われたい気持ちとは違うんですけど、捧げたものを返してくれって言っても今さら手遅れだよねっていう自分の気持ちを歌っています。過去のトラウマとか恐怖が発作みたいに立ち現れて、「幽霊」って言葉を使っているというか。この曲の幽霊は過去にこびりついている障害みたいなものですね。
―自分の念みたいなもの?
君島:そうそう。思い出したくない景色とかに対して「幽霊」って言葉を使っています。その景色を離人感みたいな感覚で、自分のことなのに映画を見ているように俺の目が捉えているというか。
―これは歌われている対象と、君島さんがある程度合致する歌という認識?
君島:そうです。だから「最近の俺」って感じですね。
―これまで「最近の俺」を歌ったことってないですよね。
君島:そんな歌なんかない(笑)。