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君島大空『音のする部屋』全曲解説——J-POPの共感性、歌詞表現への苛立ちとともに語る

2025.6.2

#MUSIC

1. “除”——初めて歌われた君島大空の「気持ち」

ーこのEPは“除”の<明日香ル霊トノ妄談律ズ>という歌詞から始まります。

君島:とにかく入口として曲をすごく怖くしたかったんです。そのために1行目はとにかく気持ちの悪い1センテンスを、日本語の発音っぽくなくスムースにメロディーにあてた感じ。

家でひとりで何かしてて、ドアのほうを見たら人が立っていた、みたいにしたかったんです。「今の人影じゃない?」「音したけど……」みたいな、怖くてありえないことが起きそうなイメージ。

―なぜ怖くしたかったんですか?

君島:怖い音楽ってありえない可能性があると思うんです。不協和音とか人間が受け入れられない音の重なり、映像を連想させる音ではあると思うけど、歌がある音楽で「こわ〜い」って思うことはありえないと思う(笑)。だからいい題材だなと。歌詞はつぎはぎで、サウンドプロダクションもめちゃくちゃ。

―<みなさんご機嫌いかが?>という歌詞もありますが、「みなさん」というような言葉は今まで歌ったことはないですよね?

君島:今までみなさんのご参加を考えたことはないです(笑)。これはすごい皮肉っぽい言い方だなと思います。「僕はこんな体調悪いけど、みなさん元気なんでしょ?」みたいに気持ちをぶん投げてる。

―自分の気持ちを曲にしてぶん投げること自体、初めてのことですよね。

君島:そうですね。これも歌詞は、言葉にすごくイライラして書いていると思います。「天使」もそうだし、ポジティブなものとして共通認識されたJ-POPに頻出する熟語っていっぱいあると思いますけど、「魔法」も嫌いなんですよ。

そういう歌で使われる便利っぽい熟語にずっと引っかかって、イライラしている自分のひとりの時間に関係している曲です。そんなキラキラした曲で、かわいらしく「魔法」とか「天使」って言うけど、マイナスの振れ幅で考えたことありますかねって思いながら僕は生きてきているので。「永遠」も絶対に使えない言葉です。

―歌や音楽の中にある言葉への苛立ちがある。

君島:「天使」とか「魔法」って言葉を音楽の中で使うなら自分の中に定義がないと、うまく使えないんじゃないかと思うんです。わからないものとして「魔法」はあるし、逆に「天使」は自分の中にはっきりした定義がある。この曲で書いた<治らない魔法>って言葉はすごく怖いし、そう言われて、今まで自分が使ってきた「魔法」のあり方に気付けばいいなって。

―「治らない」と「魔法」の組み合わせは初めて見たかもしれないです。

君島:あまりないですよね。その人の人生固有の景色や過去って、ある種の呪いだと思うんです。それは自分の音楽の「動機」も同じ類いのもので。僕は呪いも魔法も同じものだと思っていて、ここで「呪い」と言わず「魔法」と言っておくと、若干希望が見える。でも、<治らない魔法>は多分いい魔法ではないんですよね。

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