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「応答せよ」——感情の海をさまよう青葉市子からのメッセージ

─「もう少し人間の暮らしのなかに入り込んでいる作品」とおっしゃいましたけど、その暮らしとは波照間のことなんでしょうか。それとも東京のこと?
青葉:“tower”でいえば、この曲は東京のビル群のことを歌っています。<赫い目玉 王蟲の群れ>という歌詞は高層ビルの赤い光のことです。
都会ではたくさんの人たちが密集していて、それぞれの人生があって、別れや苦しみ、喜びを持って群れをなしているわけですが、この曲ではそうした銀河に向けて曲を書けたらいいなという思いがありました。

─「発光生物」というテーマにもさまざまなイメージが結び付けられているわけですね。
青葉:「発光」ってイメージ的にはキラキラしてたり、かわいいものだったりするかもしれないんですけど、私たちが確かに生きているということ——「生きてしまっていること」と言ってもいいかもしれないけど——そのなかには、人を殺めることも含まれているし、この生物として生まれてしまったからこそ、そうした生き死にの関係は現代においても逃れられないと思うんですね。生物でいうと捕食の関係とか。人間は複雑ですが、シンプルに見たらやっていることは昔から変わらない気もしていて。
─なるほど、確かにその通りですね。
青葉:でも、これは言葉のあやで、変なふうに解釈されがちなので、ちょっと怖がりながら言いました。
─発光生物というテーマは、そういった命のあり方、生物のあり方まで踏み込んでいるということですよね。その意味では『アダンの風』とはだいぶ違うと。
青葉:そうなんです。箱庭ではなくなっていると思います。発売当時はここまで話してこなかったので、発売から少し時間が経って聴き込んでくださってる方も多くなってきた今だからこそ伝わるかなと思って。

編集部:今回のアルバムには舟や帆、灯台など、航海に関するモチーフが繰り返し出てくることが気になりました。これは、ツアーで世界各地を回ったイメージとつながっているのでしょうか。
青葉:うーん、そういうものじゃないですね。もっと感情の領域をさまよっているイメージというか。
編集部:“惑星の泪”に<M’aider みらい/何億光年のメロディ/はじめまして>という歌詞がありますが、その言葉もさまよっているイメージ?
青葉:“惑星の泪”は言うならば、メッセージソングの認識です。この「M’aider」は「助けて」という意味ではなく、「応答せよ」的な意味で使っています。でも、壊れかけた舟から「M’aider」と呼びかけているので、「助けて」というニュアンスもあるのかもしれない。
編集部:青葉さんはこれまでも、命のきわきわのところでメロディーを掬い上げてくるイメージを語られていましたが、この歌には同じような状況にある一人ひとりの聴き手に呼びかけて共鳴を促すようなところもあるのかなと思いました。
青葉:この歌にはそういうミクロな視点とマクロな視点の両方があると思います。“惑星の泪”でミュージックビデオを作ろうと構想したことがあって。地球に大きな隕石がバーンと当たって、皮が剥がれるみたいに地球が破壊されていくプロセスを4、5分かけてスローモーションで描こうと思ったんですけど、あまりにも刺激が強いと思ってやめました。
