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発光生物というテーマ、暗闇でうごめく命の銀河のイメージ
─『Luminescent Creatures』というタイトルは「発光生物」のことですね。このテーマが浮き上がってきた経緯を教えてください。
青葉:前のアルバムに“アダンの島の誕生祭”という曲が入ってるんですけど、その曲の英題が「Luminescent Creatures」なんです。『アダンの風』のなかで最初に書いたのがその曲で、2020年の3月ぐらいに書いたと思います。
だから、そのころにはサンゴの産卵だったり、暗闇のなかでうごめく命と、その流れみたいなイメージはざっくりあって、だんだんとフォーカスしていく過程で「Luminescent Creatures(発光生物)」の世界に近づいていきました。いろいろ勉強していくなかで「発光生物はなぜ光り始めたのか」という原点に興味を持つようになったんです。
─発光生物はなぜ光り始めたんですか?
青葉:彼らはあるとき、「自分が個体なんだ」ということに気がついたそうなんですね。そのとき、他の個体に信号を送ることで、「自分がここにいるよ」という存在証明をし、相手を理解しようとしたそうです。それが発光であり、点滅という手段だったそうで。そういう個体同士がくっつくことで新たな生物が生まれるわけで、すごくロマンチックだなって。
─そうですね。
青葉:私たちの細胞のなかでも、シナプスとか小さい単位で考えれば、身体中が発光していると思うんですね。何かが閃いたときって電気が走るような感覚がありますけど、それだって発光だと思うんです。今の私たちの身体と、地球上に生まればかりの生物たちは何も変わりない。同じ星の生き物たちなんだなということを考えるようになったんです。

─新作であらためて再認識したのは、市子さんの紡ぐ言葉の素晴らしさです。6曲目“FLAG”へのコメントのなかで、「私はほとんど歌詞を先に書くので、その言葉が持つ風景や情景から曲のイメージが呼び起こされることが多いです」と書かれたものを読みました。風景や情景をイメージする前に言葉が浮かんでくるということなんでしょうか?
青葉:突然言葉がやってくるわけじゃないので、やっぱりその前に見ていた景色が元になりますし、自分が経験した感情、気持ちの揺らぎから言葉を紡がれていくことが多いですね。ただ、歌詞は文章とは違って短い言葉なので、歌を作っていくうちに新たな景色を呼び寄せてくれます。その部分をメロディーやコードに置き換えて作っていく感じですね。
─書いていくうちにまた別の情景が引き寄せられてくると。
青葉:そうです。あるいは歌詞にしたことによって、もともと気づいていなかったことも導かれてきたり、新たな解釈ができたり。言葉同士の隙間があるからこそ、それを埋める音がやってくるという感じです。
─いくつかの曲には「あなた」や「君」という言葉が出てきますよね。例えば、4曲目“tower”には、<かつて魔法と 呼ばれて いたもの/すべて 紛いものでも 嘘でもいいの/あなたが ここに いるなら>というフレーズがあります。ここでいう「あなた」とは誰のことなのでしょうか。
青葉:今回の『Luminescent Creatures』と『アダンの風』を比べると、大きな違いがあって。それはもう少し人間の暮らしのなかに入り込んでいるということです。
発光生物が自分たちを見つけ合って愛し合ったように、私たちも同じ繰り返しをしていると思う。それが恋人じゃなかったとしても、誰しもが誰かとの関係性のなかで生きている。“tower”ではそういう意味で「あなた」という言葉を使いました。
─僕は市子さんがここで「あなた」と歌ったとき、実在の誰かではなく、精霊に向けて歌っているような感じがしたんですよ。神行事のときはそういった超越的な存在に向けて歌いますよね。そうしたニュアンスをこの曲に感じたんです。
青葉:そういう解釈でもいいと思います。“tower”は波照間の体験とつながっていないかもしれないけど、自分がそう思っているだけで、聴いている方が見つけてくれることもあると思うんですよ。そういう気持ちでもう一回歌ってみようと思います。