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「音楽に嘘はつけない」。青葉市子の歌が、世界各地で言葉を超えて響く理由

2025.9.5

#MUSIC

島の祭事に飛び込み、神歌を習い、おばあの歌を記録する

─波照間島では拝所(うがんじゅ)や御嶽(うたき)でさまざまな民俗行事が行われ、多様な神歌が伝えられてきたそうですね。

青葉:一般公開されない神行事も含めると、すごくたくさんありますね。地域の行事だけが書かれたカレンダーが配られるぐらい。それぞれの集落で行事があって、その行事にまつわる歌があるんです。でも、今はもう歌える人がいなくなりつつあって、歌詞だけが文字として残っている状態。それを読み上げて終了ということも増えているらしくて。

─それは寂しいですね。

青葉:そうなんですよ。いつも一緒に三線をやってるネーネー(沖縄語~八重山語で「お姉さん」の意味)がいるんですけど、彼女は波照間の人なので、お母さんやおばあが歌っていたものを覚えていらっしゃるんですね。今一緒にその歌を録音したり書き残す作業をしています。島を出た子どもたちが戻ってきたとき、楽譜や音源が残っていれば、神行事の歌を歌えるんじゃないかと思って。

─地元の方と交流するなかで、市子さんもそういう神歌を習っているわけですね。

青葉:そう、覚えている最中ですね。

─神行事の歌というのは一般的に聴かれているポピュラー音楽とはまったく違うもので、それこそ神様や精霊のために歌うものですよね。そういった歌に触れたとき、市子さんはどんなことを感じたのでしょうか。

青葉:資料をさかのぼれば、歌詞はいろんなところに載っています。例えば『PATILOMA 波照間 古謡集1』(2009年)というCDにもそういった歌は入っていますし。でも、歌う人ごとに節回しは無限にあります。それがバリエーション豊かなまま残っていないことがもったいないと思うんです。ネーネーが言ってたのは、神行事の際、全員が違う節回しで歌うから鳥肌が立つんだって。

─おもしろい。必ずしも統一された節回しというわけではないんですね。

青葉:例えば、おばあが5、6人いて、全員が違う節回しで歌い始めたとき、「場所がそのもの」が歌い出す瞬間があるそうなんです。それでなぜか木々が静まる感じがあるらしくて、「あの感じはもうないね」と言っていました。

波照間島の神歌や古謡などを収録したCD作品。プロデュースは久保田麻琴

─2023年からは豊年豊漁と祖霊供養を祈願する伝統行事「ムシャーマ」にも参加されていますよね。

青葉:コロナ禍で中止になっていたこともあって、2023年は4年ぶりのムシャーマでした。移住して教師になっているご夫婦に三線を教えていただき、参加することができました。久しぶりだからみんなやり方を忘れちゃってて。毎年やるものだから細かいことも覚えているんだなと思いました。

─市子さんはミチサネーという仮装行列で三線を弾く係を担当しているそうですね。

青葉:そうですね。ミチサネーでは稲摺節をやる女性がいたり、馬にまたがった馬舞者(ウマムシャ)がいたり、道化役のブーブザーがいたり、いろんな人が続いていくんですね。私は五穀豊穣と幸福をもたらす神様「ミルク様」の歌を歌うミルクンジーの地謡(※)として三線と歌をやっています。

※「地謡(じかた)」とは、三線の演奏で主に伴奏を担当する奏者のこと

2017年に波照間島で行われたムシャーマの記録動画(文化遺産オンラインで詳細を見る

─市子さんのInstagramアカウントにそのときの写真がアップされていますが、すごく楽しそうです。

青葉:そうそう、すごく楽しいですね。ムシャーマはご先祖をお迎えして歌や踊りを楽しんでいただくという祭りでなんですね。基本的に島民全員参加の祭りなので、一大行事なんです。島がムシャーマ一色になります。

─ムシャーマのなかで歌うこと・演奏することというのは、市子さんにとっては普段の演奏活動とまったく違う行為なのでしょうか。あるいはやってみると案外同じことだった?

青葉:普段とは演奏する楽器が違うということと、自分で作った歌ではないという点は違いますね。でも、音楽としてやっているという意味では大きな違いはないと思います。役割が違うだけで、エネルギーは一緒です。ただ、普段はひとりで弾き語りをすることが多いわけですけど、ムシャーマのときは何百人と一緒にやるから、大きなアンサンブルのなかにいる感覚ですよね。

青葉市子のInstagramより(外部サイトを開く

─ムシャーマに参加したことで、波照間に対する意識は変わりましたか?

青葉:変わったと思います。ムシャーマに参加することでもっと人間らしい波照間島のことを知ることができました。ちょっとしたいざこざも含めておもしろいですね。「おもしろい」と言ったら怒られそうだけど(笑)。

ただ、そういうところを「おもしろい」と思える人と「無理」と出て行っちゃう人がいて、波照間島はそういう反応がはっきり分かれるみたいです。いられない人は「島が弾いてしまう」と言われているぐらい。

─市子さんは弾かれている感じがしない?

青葉:してないですね、今のところは。結構タフにやれていると思います。狭い島だからこそ、波照間は人間関係があまりベタベタしてないんですよ。同じ部落に住んでいるのに1年間会っていない人とか全然いるんです。すれ違わないことなんてあるの? というぐらいの小さな部落なんですけど。そういう距離感がみんなの関係性を保っている感じもしますね。

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