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映画『アイ・ライク・ムービーズ』レビュー 天才じゃなかった少年が大人になるまで

2024.12.27

#MOVIE

アイ・ライク・ムービー、アイ・ヘイト・ムービー

ニューヨークで映画を学びたいローレンスにとってカナダの隣国アメリカは、目の前にあるのに手の届かない国でもある。憧れているポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランクラブ』(2002年)をはじめ、ローレンスのアメリカの映画産業への憧れは、スクリーンのように直接手に触れることのできないイメージとしてある。そしてローレンスの自己中心的な態度により、自主映画制作は暗礁に乗り上げていく。映画制作によって引き裂かれる友情。疎遠になっていく二人。マットは新しい一歩を踏み出す。大人になることに取り残されたローレンスは、バーチャルな世界ではないリアルな痛みを知る。アラナは映画なんて嫌いだとローレンスに言い放つ。アイ・ライク・ムービー! アイ・ヘイト・ムービー!

(左から)ローレンスとマット

憧れと在りし日への追憶。ローレンスとマットが制作した映画はDVカメラで撮影されVHSテープにダビングされたものだったが、マットの新しい制作パートナーであるローレンは16ミリカメラを抱えている。チャンドラー・レヴァック監督は、ジョナス・メカス監督の作品のような「追憶」をローレンの撮る16ミリフィルムに込めている。デジタルにはないフィルムならではの感光には、映画の原始へと辿っていくような「追憶」が宿っている。このフィルムには手に触れた途端に消えてしまうような儚さがある。フィルムの儚さが過ぎ去っていく10代のノスタルジーと強く結びついていく。このときローレンスは自分が何か大きなものに守られていたことを悟ったのかもしれない。それはこの寂し気な町のことであり、大好きなレンタルショップのことであり、マットのことであり、母親やアラナをはじめとする心優しき大人たちのことだ。すべての風景は過ぎ去っていく。

10代の回り道。『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は、柔らかい繭に包まれたような郊外の町で、天才でもなんでもないティーンエイジャーがどのような回り道をして大人になっていくかを描いている。とはいえローレンスが大人になっていく回り道は10代に限らず、人生そのものに付きまとう回り道といえる。5年や10年、あるいはもっと時間を経たときに初めて誰かの優しさに気づくこともある。自分という存在が許されていたことに感謝することもある。映画を見るということは他者の人生に視線を向けること。この珠玉の作品は若さゆえの不遜さを肯定する。人生の仕切り直しを肯定する。何より自分の周りにいる人たちを理解するチャンスを与えてくれる。

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』

2024年12月27日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本:チャンドラー・レヴァック
出演:アイザイア・レティネン
ロミーナ・ドゥーゴ
クリスタ・ブリッジス
パーシー・ハインズ・ホワイト
配給:イーニッド・フィルム
Ⓒ2022 VHS Forever Inc.All Rights Reserved.

公式サイト:https://enidfilms.jp/ilikemovies

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