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変わるなつみと変わらないヒロトの肯定

一方で、本格的に漫画家デビューを目指すことになったなつみの夢が現実になっていく過程と並行して、第1回におけるナレーション(小林聡美)の言葉を借りれば「何も変わらないのんきな青年」であるはずのヒロトがずっと変わらなかったわけではないことも明らかになった。なつみが青年向けコミック誌『スピリット』の副編集長・二階堂ヤスキ(駿河太郎)とのやりとりに一喜一憂する様子を微笑ましく、時に心配そうに見つめるヒロトは、その姿に、俳優を目指していたかつての自分を重ねる。
初めて芸能事務所を訪れた時にマネージャー(山中聡)から言われた「これからは楽しいだけじゃなくなるよ」という言葉が、「より多くの読者に届けるためにはどうすればいいかを考えろ」という二階堂の言葉と重なる。そこで示されるのは、プロになることのシビアさとともに、かつてヒロトが挫折した「売れなかったら負けって世界」になつみもまた足を踏み入れたという事実だ。そして「認められた」ことに喜ぶなつみと、かつて未来に期待を膨らませ、満月の下、嬉しくて阿佐ヶ谷まで走って帰ったヒロトの姿もまた重なるのである。
今、同じ満月をヒロトは縁側から見つめている。夢に向かってひた走ったかつての彼の姿も、釣り堀の常連さんにもらった栗で作った栗ご飯を嬉しそうに食べる現在の姿も、どちらも幸せそうだ。本作は、変わろうとするなつみも、変わらないことを選んだヒロトも、どちらも肯定してくれているのだ。