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GRAPEVINE新たな代表曲“天使ちゃん”の制作秘話
ーこの曲はセッションで作られているんですよね?
田中:そうです。しばらくセッションで作ってなかったので、まず「セッションで曲を作ろうか」っていう話が先にありまして。でもまあ、いつものようにダラダラとセッションをするのも非常にその……タイパが悪いという。なので、何かしらテーマを決めてやろうっていうところで、勲さんから「たまにはギターを持たずにトーキングブルース(※)やるのはどう?」という提案があったんです。
※語り口調で社会風刺や個人的体験をリズミカルに歌うスタイルのフォークソング。旋律は最小限で、話すように歌うのが特徴。ボブ・ディランらが用い、批評性やユーモアを織り交ぜた表現として発展した。
ー最初にセッションで曲を作ったのが、長田進さんプロデュースの2006年作“FLY”でした。今のGRAPEVINEにとって、セッションで曲を作ることにはどんな意味がありますか?
西川:やっぱり偶然性で出てくるものがたくさんあるのは面白い。誰か一人の考えじゃない、いろんな要素が入ってるから不思議な曲ができたりして、そういうのはすごく価値があるなと思います。“天使ちゃん”はある程度ビジョンが先にあったんですけど、それでもかなり変わったものになりました。1からセッションする場合は本当に何にもないところから作るから、それはもう夕方になってみないとわからない(笑)。

ーそういう意味では一昔前のセッションと今回のセッションは違うと。
西川:全然違いますね。
亀井:前はすごい時間をかけてダラダラやってたから、博打的な要素も多かったというか、何ができるかわからない。でも今作は最初からビジョンがあって、それに向かって始めたので、だいぶ時間は短縮できました。
ー曲自体はセッションで作っているけど、録音に関してはまた別のいろんなアイデアが詰まっていて、例えば、亀井さんのドラムはバスドラ、スネア、ハイハットをバラで録音しているそうですね。昔“風待ち”で一度同じようなアプローチをしたことがあるとか。
亀井:普通にやったら人のノリが出ちゃうけど、ちょっとループ的なノリを出したかったんです。人がやってるけど、ちょっと機械的な、変なグルーヴ感にしたくて。録音ではみんなで一緒に演奏していないので、「どういう感じになるのかな?」って、録りながら思ってました。

ー西川さんはバリトンギターを弾いている?
西川:ギター自体は普通のギターなんですけど、低いところの弦ばっかり弾いてます。トーキングブルースっていうのが僕の中にはなくて、昭和のグループサウンズみたいな方向のサイケデリックな感じにしたらいいんかなと思って。なので、多分僕のやってることはフレーズ的には結構サイケだと思いますね。
ーそうやって違う要素が混ざることによって、歪な面白いものが生まれる。
西川:最終的に高野さんには「らしいこと弾いてください」って言われたんですよ。らしいことって、なかなかものは言いようやなと思って、じゃあまあ俺だったらこう弾くかなって。そのときはもうトーキングブルースのことは忘れてました。
ーさらにはストリングスも印象的です。“わすれもの”のストリングスはポップスに乗る上ものというイメージでしたけど、“天使ちゃん”のストリングスの入り方はより立体的で、SE的でもある。アレンジは高野さんですか?
西川:そうです、もうお任せでしたね。自分で譜面を書いて、自分で説明して、録音してました。弾いてるのも高野さんと何度かやったことある人たちで、すごい丁寧に入れてくれましたね。普通ストリングスの人ってそんなに演奏してくれないんですよ。大体1回か2回なんですけど、今回10何テイクくらい録ってて、それはすごく珍しいです。