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薫に感じた、社会に対する「祈り」

もうひとつ、薫を突き動かしたのは、社会への抵抗である。かつて慎吾の部下として、大手企業「三ツ橋商事」に勤めていた薫は、順調にエリート街道を歩んでいたが、ワーママを支える制度改革の一環として、子育てしながら時短勤務で働く同僚・由実(筧美和子)の補佐を命じられた。「誰かを押し上げるために、別の誰かを犠牲にするような多様性」を受け入れられなかった薫は、衝動的に会社を辞めてしまったのだ。
「私は、いろはさんが宇宙に行く姿を見てみたいんです。だからここで諦めたくないんです」
なぜ勝ち目のない戦いにまだ足掻くのか。竜馬からそう問われた第9話で、薫はこう答えている。東大卒の自分と同等、あるいはそれ以上の高い能力を秘めたいろはも、いずれは薫が受けたような理不尽にぶつかる日が来るだろう。社会の足並みに合わせることが苦手で、なおかつ親が有名人という特殊な環境で育つ彼女であれば、尚更だ。だからこそ、いろはが進む道が少しでも良くなるように、薫は自分の能力を使おうとしたのだと思う。
それはある意味、いろはの成功によって、薫が叶えられなかった自己実現を果たそうとしているようにも見える。しかし、私はそこにもっと純粋な薫の「祈り」を感じるのだ。いろはがこれから生きてゆく社会が、彼女の能力を正当に尊重する真っ当な場所であってほしいという思いが、薫の背中を押したのではないだろうか。