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薫を突き動かした2つのもの

「実は、私も仕事を辞めたことを、少し後悔してたんです。会社を辞めたことで、今まで頑張ってきたこと、全部がムダになった気がして。でもそれは、自分が正しいと思っていたキャリアに原因があったのかもって」
「だから、自分に変数を与えてみようかなって」
「ちょっと先の見えかけていた人生にニセママっていう変数を入れたら、どう変わるのかなって試してみたくなって」
ニセママ契約が智也に露見した第5話。四者面談を終えた帰り道、「なぜニセママ契約をしているのか」という智也からの問いに、薫が答える場面だ。いろはと接する中で、苦手としていた子どもの良いところに気づけたこと、突発的に会社を辞めて、立ち行かなくなっていた自分も変われたことなど、彼女はポジティブな変化を口にする。だがこれは、あくまでも、聡明な彼女がリスクしかない契約に加担することに対して 、自分自身を納得させるための大義名分でしかなか ったのではないか。
薫を突き動かした理由の一つは、大手企業・三ツ橋商事を退職したことで、厳格な母・聖子(筒井真理子)の期待に応えられなかったことへの後ろめたさだ。母と娘の関係は一見、良好に思えたからこそ、聖子からの悪気のない「あなたはずっと優秀だったから、就職して結婚して、仕事と子育てを当たり前に両立していくと思ってた」「みんなができていることを、あなたができないのが不思議」といった言葉は重く突き刺さる。それまで薫も自分の考えを母に伝えてはいたが、第6話で、入院中の母にニセママ契約のことを打ち明けるために、必死に言葉を選んでいた姿を見ると、彼女の行動原理の底には、やはり母の期待に応えたいという気持ちが横たわっているようにも感じた。
過ちを自覚しながらも、「RAINBOWLAB」の副社長・竜馬(向井康二)に「今の私を知ってほしかった。ママにわかってほしかった。頑張ってるのねって、言ってほしかったんです」と涙ながらに吐き出した姿は、社会的には自立した大人であるはずの薫が、いまだ母からの承認を得ようとしている幼い「娘」であったことを痛切に示していた。ニセママという選択は、母のまなざしの中に、なんとか自分の居場所を見つけようとした結果なのかもしれない。