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西島秀俊の演技論。ポジションや導線、ロケーションが俳優の演技に与える影響を語る

2025.9.5

#MOVIE

身体的な暴力ではない、コミュニケーションを媒介にした不穏さ。真利子作品に起きた変化

―『ディストラクション・ベイビーズ』では身体的な暴力が鮮烈でしたが、今作では少しテイストが異なりますね。

西島:たしかに今作は、これまでの真利子監督作品とはちょっと肌触りが違うと感じています。他者からの無理解や、突然事件に巻き込まれるという家族の状況、それらによってお互いの関係性までもが変わってしまうという物語で、肉体と肉体がぶつかり合う直接的な暴力というものはそれほど描かれていません。そうした変化をとてもおもしろいと感じながら演じていました。

―今作には身体的な暴力のシーンもあるけれど、どちらかといえば会話だったり周囲の状況だったりが、主人公たちにとって暴力的に働いていると感じました。

西島:賢治たちの家族が、ニューヨークのブルックリンで移民として暮らしているという背景なども関係があると思います。そして周りの人から、自分の大切にしていること、やりたいことに対して無理解に晒されています。特にジェーンは、自分にとって生きていくために必要な、彼女が本当に大切にしていることが「今、必要ないでしょ」と言われたりしてしまう。

これらを「暴力」と一括りにして呼んでいいのかわかりませんが、現在の状況と折り合いがついていない、いつかこの状況が崩壊して破綻していく予感のような不穏さがあります。そしてそれは、もしかしたら現代社会が抱える問題とも直結しているのかもしれません。

グイ・ルンメイ演じるジェーン / 『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』場面写真 ©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

―この作品はセリフの約9割が英語ですよね。ただし賢治とジェーンとの言い合いなどの場面では、つい日本語が出てしまう。

西島:僕の演じた賢治は、研究内容が評価されてアメリカに呼ばれた助教授なので、英語がネイティブほど堪能ではないという役柄です。だからジェーンとの言い合いのときなど、感情が先走って言葉が出てこないこともしばしばあり、思わず母国語が出てしまう。そうした賢治の人物像を表す描写は、脚本の段階で描かれていました。カットされたシーンにも、日本語でブツブツ言っているところがあったりもしました。

―西島さん自身は、コミュニケーションや対話をする上で大切にされていることはありますか?

西島:大切に思っているのは、正直であることです。正直に話すことで、ストレートに言葉の持つ力が強く伝わることを一層感じています。良い感じに言葉を装ったりすると、相手に伝わらないんです。だから本当に思っていることを、正直に伝えたほうが言葉は力を持つと感じています。

今回、海外のスタッフやキャストの方々と一緒にお仕事をしましたが、日本のスタッフや共演者にはもちろん、海外の人々とコミュニケーションをとっているとそのことをより感じます。これからも正直であることを大事にしていきたいと思っています。

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